友達の詩 ― マンコがマンコに恋をする理由 ― 松野ゆい×森下くるみ  二村ヒトシ監督作品



 手を繋ぐくらいでいい 並んで歩くくらいでいい
 それすら危ういから 大切な人は友達くらいでいい

                        「友達の詩」中村中
 マンコがマンコにって・・・ちょいと口に出せないタイトルですが(出すけどね)、そのまんまレズ物AVです。
 私生活において仲の良い「友達」で松野ゆいと森下くるみ(以下敬称略)のドラマ部分である「虚」とインタビュー&トーク「実」が混ざり合っています。AV女優生活10年のベテランながら清廉さを保ち続けている「聖なるAV女優」森下くるみに、友情以上の感情を抱く松野ゆい。D−1のオーディションでも感じたけど、無防備な真っ直ぐさ故に脆さも垣間見えるけれども、凛とした「オトコマエ」女優の松野ゆい。信じられないぐらいの色白美肌とたっぷりと潤いを含んだ唇にうっとり見惚れてしまう。


 最初にこの作品を観て、私は冒頭のインタビューから泣きっぱなしだった。ヌいたけど(4回)その間もずっと涙がこぼれていた。2回目に観た時もやっぱり泣いた。号泣という泣き方ではなく、無意識のうちに少しずつ目に溢れてくるような感じで泣いていた。
 数人の女友達に「レズAV観て泣いた」と言うと、驚かれた。「何でAV観て泣くの?」「そんなに悲しい話だったの?」と。
 全く悲しい内容では無い。だけど私は泣いた。どっぷりと感情移入して泣いた。身に覚えのある感情がそこに描かれていたから。
 「何でAV観て泣いたの?」という問い対して、その時返事が出来なかった。ひとことふたことで簡単に説明できないからだ。
 だから、ここに私が泣いた理由を書きます。
 「何でAV観て泣くの?」という問いに答えて。



 冒頭のインタビューで、松野ゆいへの森下くるみへの想いが語られる。私生活でも仲の良い「友達」ではあるけれども、松野は森下に友情以上の感情を抱いていること。松野の言葉の端々や照れ具合から、松野が森下のことを「全部好き、大好き」なのが伝わってくる。松野さんって呼んで欲しくなくて、「まっつん」と呼んでもらってること。くるみちゃんの頭のてっぺんから足の爪先まで、くるみちゃんのやることなすこと全てが大好き。好きで好きでたまらない。

 作品のラストの2人がホテルのベッドの上でシャンパンを飲んで寝転がりながら話をするシーンでも松野はこう言う。

 「なんであたしって、くるみちゃんのことこんな好きなんだろう」

 好きって気持ちは理屈じゃないから、「なんで」なんて誰もわからない。損とか得とか利用しようとして「好き」になることもあるかもしれないけれども、やっぱりそれは違う。ただ、好き。大好き。あなたという人が存在していて、私は惹かれて、好きになった。それだけのこと、それだけの気持ちが「恋」。松野ゆいの目に前に森下くるみという1人の人間が現れて、松野は森下を好きになった、それだけのこと。


 好き、です。大好きです。ただ、好きなだけです。
 あなたのことが。

 インタビューで松野はこう答える。

「(森下に対する気持ちは)ゆきずりの女じゃなくて、初恋みたいな・・・・」

「ずっと私のこと好きでいて欲しいし、私もずっと側にいたい」


 森下さんのこと好きですか? と問われて、顔を赤らめながら「好きです」と答える松野。


 対する森下くるみは、いつもの如く淡々としている。それは決して冷たいという印象の淡々さではなく、全て受け止めるという母性を感じさせる構えのある淡々さ。
 松野の「くるみちゃんのことを好きで好きでたまらない」という「攻め」の恋と、森下の「受け」の愛。「友達」同士の2人が、「AVというお仕事」の中で、初めてセックスをすることとなる。
 
 
 最初のショートドラマは、女子高生の松野と、近所のお姉ちゃん森下。オナニーのオカズにするぐらい大好きなお姉ちゃん森下が離婚して実家に帰ってきた。
 セックスって、どんなことするの? と問いかける松野に触れる森下。「まっつんは好きな人いるの?」と森下に聞かれ、あなたが好きとも言えずに「いるよ」と答える松野。裸になり絡み合い、「大好きなお姉ちゃん」と肌を合わせた松野に森下がこう言う。

「セックスは好きな人としなよ。そうじゃないと気持ちよくないよ」


 インタビューを挟み、暗幕でお揃いの金色の下着を身につけた森下と松野が言葉無くお互いの肌と性器を舐め、味わう。「友達」の「くるみちゃん」の性器を乞うように見つめ愛でて、舌に神経を集中させて味わいつくしてやろうと執拗にクンニする松野。お返しにと、松野の背中や性器を味わう森下。「好きな人」に身体を舐め味わわれ、涎を垂らして恍惚とする松野。


 次は病院の診察室。女医の松野と看護婦の森下が診療台の上でお互いの身体を弄ぶ。ち○ぽの張り方やローターを使ったり、指マンでひたすら弄びあう。ここでは2人の恋愛じみた「関係」の設定は無くて、ただ性の欲求のまま遊ぶのだけれど、それでもセックスをしながら松野の森下への乞うような恋心と、そんな松野の気持ちをわかって愛で身体をいとおしむ森下がいる。
 お尻を突き出しスパンキングをせがみ、「森下さんにいじめられたい」と被虐される快楽に恍惚となる松野。好きな人にいじめられたい、好きな人に恥ずかしいことされたい、好きな人だからいじめられたい、私の身体にあなたの痕が欲しい、いじめてください、私を。

 個人的にはレズプレイに張り形と言えど「チンコ」は要らない・・ちゅうか、邪魔。それはレズプレイだけじゃなくて、自分が実際に男の人とセックスする時も同じで、相手の存在以外に「チンコ」(バイブとかも)があると、第三者に介入されているようでどうも気がそがれるのです。お前邪魔なんだよっ! って。一対一でいい。一対一がいい。ま、それは非常に個人的な話です。


 最後に、パーティファッションに身を固めた2人がホテルの部屋でお酒など飲みながらベッドでトークします。カメラの前だから、AVという「くるみちゃんとセックスできる」場だからこその、普段「友達同士」の時には言えないであろう森下への気持ちをポロポロと口にする松野。自分の気持ちが、正確に伝わるようにと言葉を吟味しながら、森下のどこが好きかを語る松野。

 くるみちゃん、好き。
 大好き。


 基本的に「友達」はセックスはしない。女同士に限らず男と女の関係でも。(そうじゃない人もいるだろうけれどもセックスする関係には『友達』って言葉を使うモンじゃないと個人的には思います)
 松野は森下のことが大好きだけど、2人とも女としかセックスできない真性レズビアンというわけではないし、普段は本当に「友達」で、こういう「AVというお仕事」の場で無ければ多分こんなふうに肌を合わすこともなかっただろう。

 セックスしたくても、相手が好きな人であるからこそ簡単に誘えない。拒まれるのが怖い、セックスしてもしなくても何かを失って、「友達」の関係が壊れるのが怖い。好きであればあるほど怖い。「友達」のままで居た方が失わずに済む。
 だって、これはどう見ても、松野ゆいの「片思い」。森下は松野のことを好きだけど、それはあくまでも「友達に対する好意」という愛情の域を出ない。松野は必死に乞うような目をして森下を求めている。森下はそれに応えてはいるけれども、それはあくまでもビデオの中だからこそ、だ。

 「大好きなくるみちゃん」と肌を、性器を、唇を合わすことが出来た松野は、どの場面でも涙をこぼしている。大好きな人とセックスが出来て、嬉しくて、気持ちよくて、本当に感じてしまって、心が解けて、切なくて泣いている。ビデオの中だから許された片思いの成就。射精が無いから、挿入が無いからこそ、肌を合わす幸福が果てることなくずっと続く、永遠と見紛う程に。


 あなたが好きなの、大好きなのと、乞うように森下を見つめる松野の潤んだ眼。自分を守る鎧を持たず、ただひたすら「好き」と乞うる松野の無防備な眼。決して自分の手に入らない、受け入れてはくれるけれども、自分が求めるようには求めてはくれないだろう人を乞うる眼。


 私も、好きな人の前であんな眼をしているのだろうか。


 だとしたら、止めた方がいい。そんな眼をして人を見るのは今すぐ止めた方がいい。AVの中だからこそ許されるのだけれど、実際にあんなふうに必死に乞うる眼で好きな人を見つめるのは、責めてるみたいで、困らせてしまう。好きだから、大好きだからと乞うてみたところで、片思いはどこまでも片思いで、好きになればなるほど、乞うるほど相手を困らせてしまう。友達だから、これからも友達として、ずっと仲良くしていたいなら、止めた方がいい、今すぐ。
 そんな眼で好きな人を見ることを。早くやめないと、友達ですらなくなってしまうかもしれないから。だから。

 大切な人は友達ぐらいがちょうどいい、から。


 
 「仕事でセックスする」AVを観て、こういうことを考えるのは、ある意味矛盾しているけれども、この作品を観て、こう思った。


「セックスは、好きな人とするもんだ」




 セックスは誰とでも出来る。実際に好きじゃない人と、よく知らない人とも何人もとセックスをした。好きじゃなくてもセックスがとても気持ちいいこともあった。私は好きな人とセックスをしたかったけれども、20代の頃は相手が私を利用する為にセックスを餌にして金を搾取していたから気持ちが良いなんて思ったこともなかった。その反動で複数の男とセックスだけの付き合いをしていた時期もあった。ウンコを食うのと乱交以外の行為は変態と呼ばれるものも一通りした。相手がどんなヤツであろうともセックスは出来る。気持ち良かったり、気持ち良くなかったり、いろいろだけど、セックスは誰とでも出来る。セックス好きだから、変態と言われればそうかもしれない、淫乱と言われればそうかもしれない。

 ずっとそう思っていたけれど、それは「挿入」だけのセックスで、「肌を合わす」セックスは、誰とでも出来るもんじゃないと、この作品を観て今更ながら知った。レズビアンのセックスは挿入が無いから、肌を合わす=セックスで、だから「愛ある幸福なセックス」が描ける。肌を合わす幸福なセックスが。


 好きな人と肌を合わせ、その幸福に泣く松野ゆい。

 「本当に好きな人とするセックス」そんな幸福な、肌を合わせ、その喜びで涙がこぼれるようなセックスを、私は今まで何回したのだろう。たくさんの人とセックスしたけれども、「本当に好きな人とするセックス」は、きっと数えられるほどしか経験してない。だけど、その「本当に好きな人とするセックス」の幸福の感触は、きっと永遠に忘れない。ありがとう、あなたに出会えて、セックス出来て、私は幸せです。


 森下くるみと松野ゆいは、この撮影が終わって、また今まで通り「友達」に戻るだろうけど(それはわかんねぇけど)、これはAVの中だから許された、AVだからこそ描けた「片思いのファンタジー」。
 叶わぬ想いを抱いて生きる全ての人の夢、甘い甘い綿菓子のようにすぐに溶けてしまう儚い夢。友達のままで、妹のままで居た方が良かったのかもしれない、好きになって求めてしまうことであなたを失うかもしれない、それが怖い。だから、本当は友達のままで、友達ぐらいがちょうどいい。



 寄りかからなけりゃ側に居れたの? 気にしていなければ
 離れたけれど今更・・・無理だと気付く
                          「友達の詩」



 友達のままで居た方がよかったかもしれない。
 だけど、だけど。
 私はあなたに触れたかった。あなたと肌を合わせて確かめたかった、あなたが誰なのか、私が誰なのか、あなたがここにいることを、私がここにいることを確かめたかった。困らせてしまっても好きと言いたかった。ごめんね、大好き。くるみちゃん、好き、大好き。なんでこんなにくるみちゃんのこと好きなんだろう、大好き。
 ずっと仲良くして側にいたい、友達のままでいいから。

 好きな人に触れることも触れられることも嬉しい。
 好きな人の性器は、とても愛おしい。
 肌を合わす「セックス」は、少し苦しくて、だいぶ切なくて、だけどやっぱり嬉しくて、痛みを伴った幸福だということが、全編通した松野ゆいの表情から溢れて伝わってくる。



「くるみちゃんと、こうなれて、すごくうれしかった」


 好きな人の唇や肌や性器は、こんなにも懐かしい。
 懐かしいから、涙がとまらない。
 ありがとう、あなたが存在して私と出会えたことに、ありがとう。
 懐かしくて優しいものに抱かれて、許される。
 ありがとう、そしてさようなら。これはビデオの中だから成就した恋だから、ありがとう、さよなら、明日からはまた友達に。友達のままで、ずっと一緒に。さよなら、ありがとう、好き、大好き、好きな人とセックス出来て、本当に良かった。


 セックスは、人の心の中に深く踏み込むことが出来る行為だ。だから人を傷つけもするし、墜とすことも出来るし、救うことも出来るし、幸福にすることも出来る、強力な諸刃の剣。
 人の心を知る為にセックスを使う監督も居れば、自分を知る為に出演する女優もいると思う。セックスが描くことが許されるアダルトビデオという世界でしか創られないものが確かに存在する。
 セックスを映すことが許される素晴らしく猥雑な世界だからこそ描ける物があるから、アダルトビデオは面白い。
 やっぱりアダルトビデオは、面白い。

 淫猥で、くだらなくて、幸福で、人の気持ちを揺さぶるアダルトビデオが、面白い。



「なんでAV観て泣くの?」と聞いた、女友達へ。

 誰かに恋をして、苦しみを帯びた幸福を味わったことのある人間なら、誰でも覚えがある痛みがこの作品には描かれているから、私は泣いたのです。


 そして、痛みを伴わない幸福なんて、苦しみを帯びない恋なんて存在しないとも思うのです。そう思わないと、生きていけないから、そう思うようにしているのかもしれません。
 懐かしい。あなたの肌は、本当に懐かしい。私を許すあなたの肌は、どうしてこんなにも懐かしいのでしょう。




 

 



現場レポートhttp://www.dogma.co.jp/info/html/genba/etc/mankoi.html
それにしてもこの2人の女優さん、本当に綺麗です。すごく綺麗です。


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中村中「友達の詩」

森下くるみhttp://blog.livedoor.jp/morisitakurumi/

二村ヒトシ監督http://blog.livedoor.jp/nimura_hitoshi/