幸福喫茶


 仕事を終え、まっすぐ家に帰らず、前田珈琲明倫館店に行く。
 木屋町のクンパルシータ、ミューズ無き後、私のBEST喫茶店はここだ。明倫館店は明倫小学校の建物を利用しているので、ほぼ「教室」の雰囲気を残してあるので、一番好きだ。珈琲は勿論、飯も安くて美味しいのです。ここは京都芸術センターの中にあるので、図書室で本を読んだり、情報センターでいろんなイベントの情報集めたり、展示を見たり、いろいろ楽しめます。
 前田珈琲、なんと、高台寺店がオープンしたらしいです。行きてぇ〜っ!!


 ところで、京都の珈琲と言えば、イノダコーヒーです。味は私もイノダが一番好き。


 3年、ちょっと前に、まだ田舎に居て、親に内緒で今働いているとこに面接を受けにきた後、電車で京都の霊山護国神社坂本龍馬のお墓に行った。
 電車の中で、龍馬の墓で、私は泣いていた。
 その辺のことは、昔「鳥辺山心中」として、書いてるんですが、ここに書いた「喫茶店で珈琲を飲んだ」というのは、京都駅のイノダコーヒーなんですね。
 イノダの珈琲が美味しくて、それを飲めるようになったことに感激した。

 喫茶店に入って珈琲を飲むなんて「贅沢」が、ずっと出来ない生活をしてたから。人に飲みに誘われてもお金が無いから理由つけて断るしかないし、人づきあいなんで金のかかることは出来ないから、事情を知らない友人達とは随分疎遠になった。

 お金が無いということは、不幸だ。
 誰がなんと言おうと不幸なことだ。
 金が無いということは地獄だ。
 
 未だに、どう見たって貧乏じゃないヤツが貧乏ぶると腹が立つ。貧乏の基準は人それぞれだが、一番腹が立つのはロクに働いてねぇくせに貧乏ぶるヤツだよ。世の中には働いても働いても金が無い人間がわんさかいるのだ。だいたい、ニートなんて金持ちの象徴じゃねぇかよ。働かなくても食えていける人間がここまで溢れているのは、日本って豊かな国なのかと錯覚させられる。


 あんな頃には2度と戻りたくない。
 働いても働いてもお金がない。ドトールの珈琲だって飲めない、マクドナルドだって高級品だ、交通費が無いからどこに行くのも自転車か歩き。
 小銭でいいから金が欲しくて、自動販売機のおつりのところに手を突っ込むような生活。交通費が無いから田舎にだって数年帰られなかった。毎月電気とガスと電話を止められていた。
 人に言えない、いろんな悪いことや恥ずかしいことをやった、20代の頃の私。醜い人生を送ってきた私。軽蔑されても仕方がないことを、やってきた。だけど死ぬことより生きることを選択してそうするしかなかったのだから、後悔はしていない。

 あんな頃には2度と戻りたくない。
 絶対に。戻るぐらいなら死んだ方がマシだ。


 だから私は、たまに喫茶店で珈琲を飲み、今の幸福を確かめ、自分を励ます。
 お前はそこから這い上がってきたんじゃないかと。
 2度と地獄に堕ちるなと、自分に言い聞かせるために。
 
 堕ちてたまるか、2度と。
 そのためなら、なんだってやってやる。
 怖がるな、逃げるな。過去を傷ではなく、刃にして。

 生きろ、生きてゆけ。