ムラノムスメ その2


 今度は、B子の話。

 A子は生まれつきの美しい顔立ちと明るく屈託のない性格だったが、B子はどこか媚びて八方美人なところがあった。 C子は、A子のことは好きだったが、人の顔色を伺うB子のことは少し苦手だった。だから自分の知らないところでA子とB子が仲良くしていると悲しい気持ちになった。

 B子の家は商売をしている大きな家だった。3つ下の弟と両親祖父母で暮らしていた。池に鯉が泳ぐ大きな家だったので、よくそこで3人でかくれんぼなどをして遊んだ。

 B子は中学校を卒業すると、自己演出の腕をあげ男子生徒にそこそこ人気があるタイプになった。
 B子の母は娘の自慢が好きな人で、高校に入学した娘が英語の成績がとてもいいこと、留学させようかと思っていることなどを近所の人に言っていた。
 B子は高校の夏休みにホームスティに外国に行った。当時、田舎の町でそんなことをする人は珍しかったので話題になった。
 
 B子は高校を卒業し、地元の短大の英文科に進んだ。そして卒業して銀行に就職した。
 数年後、隣村に住む銀行の先輩Eと結婚して仕事を辞めた。

 子供が出来なかったのか、作らなかったのか、わからない。子供どころではなく、Eはある日いきなり銀行を退職して働かなくなった。B子が働くように言っても、「俺のやりたい仕事がないんだ」と逆ギレするらしい。

 仕方なく、B子はパートに行き出した。Eは相変わらず働かず家に引きこもっていた。そんな状態が十年以上続いた。
 数年後、B子は籍はそのままで実家に戻ってきた。
 実家では弟が既に結婚して所帯を持っていた。

 B子が鬱病だと聞いたのは、数年前のこと。だけど何故か、相変わらず離婚はしていないままだという。

 そして最近、B子の家が大変だと聞いた。何が大変なんだとC子が母に聞くと、B子が夜中に奇声を発したり、家を抜け出て近所を徘徊するそうだ。
「それは・・・鬱病じゃ、ないよ、もう」
 と、C子は母に言った。

 C子の母が、スーパーでB子の母とB子を見たという。
 尋常ではないほど痩せこけて、目が虚ろ。とても三十代には見えないほど老け込んでいたらしい。

 学生時代、華やかに身を飾り、甘えた声で男を惹きつけ、「英語が得意」でホームスティに行っていたB子。
 あの、少女が、どうしてそんなになってしまったのだろうと、C子は思った。


 C子だけが、高校を卒業し、村から出た。大嫌いな村から。
 2度とこんなところ帰ってくるものかと思った。

 けれど、十年以上の時間を経て、C子はあれほど嫌いだった村に戻らざるを得なくなった。


 A子とB子の噂話を聞く度に、わたしの幼馴染は、あまり幸せそうではないと、C子は思う。
 だけど、そういうわたしは、果たしてどうなんだろう。


 他人から見た、わたし、は。

 少なくとも、20代の頃のわたしは、いいことなんて一つもなかったし、30代となり、1度も結婚していないわたしは、村の人から見て、羨望される存在ではないだろう。