星と祭 ―観音の里・高月町を訪ねて―

hankinren2008-08-03



 三十路後半エロ子さんは、週に1度の休日にジーンズに防水登山靴を履き、幅広い帽子をかぶり、首にはタオルを巻いた「どっからどう見ても立派なオバハン」スタイルで朝から電車に乗り東へ向いました。

 私が向うのは、滋賀県高月町http://www.town.takatsuki.shiga.jp/s/kankou/というところです。滋賀県でも湖北といわれる福井県に近い場所にあります。この高月町は観音の里と呼ばれておりまして、本日は「観音の里たかつき ふるさと祭り」が開催され、普段見られない観音様も見られるということで青春18きっぷを使いはるばるやってまいりました。

 青春18きっぷは若い人しか使えないと誤解されている方が結構いらっしゃいますが、年齢制限はございません。今日の日帰りの旅なども、往復でマトモに切符を買ったら京都から3000円以上いたしますので、2300円で一日乗り降り自由の青春18きっぷがお得なのです。ちなみに5回分一枚で販売しています。JRのトクトク切符は他にもいろいろ便利で格安なモノがありますので知らなきゃ損でっせ。

 本日はこの観音まつりの特別企画のバスツアーに参加してきたのです。いつもは案内する方やけど、勿論今回は客としてです。

 以前から読もうと思い購入はしていたけれども放置していた井上靖の「星と祭」(角川文庫)という本を先月やっとこさ読破。離婚した前妻と共に京都に住む17歳の娘が琵琶湖で遭難し、そのまま遺体はあがらなかった。琵琶湖に眠る娘の死を受け止められぬまま父親はあることがきっかけで奥琵琶湖の観音巡りを始める・・・・というお話です。

 この湖北地方の観音様のあり方は特殊です。いや、特殊ではなくて、これが本来のあり方なのです。ここにはただ、「信仰」だけがあります。権力者が国家守護や自身の極楽往生の為に作ったのではなく、ただそこの集落に住む村人達の信仰のためだけに存在し守られ続けてきた観音様です。

 湖北地方は戦国時代、浅井家の領土であったため、織田信長浅井長政朝倉義景が戦った姉川の戦いの際や、その後に柴田勝家羽柴(豊臣)秀吉賎ヶ岳で戦った際など何度も兵火を被っています。
 
 湖北の観音様の中で唯一の国宝「渡岸寺観音堂向源寺)の十一面観音様」
http://www.kitaomi.com/item/tk/280.htmlこちらは織田信長の浅井攻めの際に、村人達により土中に深く埋められて難を逃れたといわれの観音様です。そのエピソードがこちらの湖北地方の「信仰」を象徴しています。

 渡岸寺の観音様は以前仕事でお参りしたことがありますので今回は2度目です。そして私が今回、一番見たかったのが上の画像の赤後寺十一面千手観音様です。井上靖は「星と祭」の中で、主人公がこの観音様を始めて見た時の印象を「無慚」という言葉を使って表現しています。この手を全て失った観音様を見て主人公は思わず手を合わせます。この観音様の隣にいらっしゃる聖観音様も同じような状態です。上の画像は小さくてわかりにくいんですが、全ての手が手首から下がないんですね。

 姉川の戦い、賎ヶ岳の戦いなどの度重なる戦火を逃れる為に村人達がこの観音様を川の中に沈めていたのです。そのうちに観音様が衆生を救う為の「手」が流れ失われたと伝えられています。「星と祭」の中で井上靖は、こう書いています。

「人間の苦しみを自分の体一つで引き受けて下さったので、あの仏さまはあのような姿になってしまったんだ」

 実際にこの赤後寺の観音様にお逢いして、痛々しい筈なのに神々しさに圧倒されて、素晴らしい、と思いました。その不具な肉体から発する救いの光を浴びさせていただいて、「星と祭」の主人公のように手を合わせずにはいられませんでした。陳腐な表現しか出来なくてスイマセン。渡岸寺の観音様を始めて見た時もいろんなことに圧倒されたのですが・・・このことはまた後日書きます。

 この観音様めぐりは、また行く予定してますので後日書きたい、書けたら。
 観音様たちは小さなお堂の中に村人達に今も守られていらっしゃいます。未だに「信仰」は続いています。現在も集落の人々が自分達を守る観音様を大切にされています。そんな観音様が無数にあるのがこの湖北地方なのです。普段は観られない仏様もたくさんあります。村の人達が交代で守っておられて、連絡を受けた時だけ公開するという観音様もたくさんあります。
 そんなたくさんの観音様にそれぞれ信仰の物語があって、ちょっと、ホンマにすごいすよ、湖北地方は。

 私は日本史に登場する女性の中で織田信長の妹「お市」の方という人が一番好きで、この人がどう凄いかということは以前熱く書いておりまする。
http://d.hatena.ne.jp/hankinren/20061127#p1
http://d.hatena.ne.jp/hankinren/20061128#p1


 この「お市」が最初に嫁いだのが湖北地方を治めていた浅井長政であり、次に嫁いで共に死んだのが柴田勝家姉川の戦いで兄・信長の手により滅ぼされた長政、賎ヶ岳の戦いで秀吉により滅ぼされた勝家。お市という女性の波乱に満ちた美しく気高い人生がこの湖北地方にあります。お市浅井長政の長女・茶々は後に秀吉の側室となり秀頼を生み、三女・お江は徳川家康の息子・秀忠に嫁ぎ三代将軍家光・千姫後水尾天皇に輿入れし明正天皇の母となる和子を生むのです。

 本日は観音まつりなので、集落の人がそれぞれの観音様の前でお茶やお菓子、場所によっては地元産のスイカやトマトなどを振舞ってくれていました。

 私はおそらくそのバスの中では一番若造やったんですけど、同じバスの皆さんのお話を聞くと、東京やら長野やら遠くからいらっしゃった方が多かったです。遠路はるばる観音まつりにいらっしゃるぐらいなので、詳しい方が多くて、バスガイドのエロ子さんの知らんかった話もいろいろと聞けました。じいちゃんに飴やお菓子貰ったりね・・・・若者扱いっていいよなぁ・・・
 最後は、皆で「また来年逢いましょう!」と挨拶してサヨナラしました。
 観音様のスタンプラリーで景品もらえたり(観音様せんべい貰った!)渡岸寺観音堂では地元の特産物なども売られていたり、町全体で一丸となって盛り上げてる感じで、すんげぇ楽しかったです。

 これからは滋賀県の時代ですよ・・・京都もうかうかしてられない・・・
 と、いうか、観光地化しすぎてうんざりすることの多い京都にはないものが存在するのねん、滋賀県は。滋賀県は湖北地方の他にも、湖東三山とか湖西地方とか、勿論大津近辺もお勧めの場所がたくさんあります。
 そう言えば、去年の夏私が必死になって書いていた「エッチマン」ですが、この「エッチマン」を見つけたのも滋賀県の某所でした。バスで走っている時に、田んぼの中に「エッチマンに気をつけて!」とか「エッチマンが出るよ!」という複数の注意を呼びかける看板を見つけたんですね。多分、痴漢のことやと思うんやけど、その「エッチマン」という言葉が非常に気にいって、去年の夏は必死に「エロ戦士エッチマン」というシリーズを書いておりました。東京まで行って出演者に会ったりしてね・・・アホちゃうか・・・・去年の夏に燃えてたエッチマンシリーズは下の方の「お暇なら読んでねん」の中にありますわよ。

 
 とにかく滋賀県は観音様やらエッチマンやらすごいんですよ!

 
 帰りの新快速列車からは伊吹山が見えました。ヤマトタケルが傷を負い、関ヶ原の戦いで敗れた石田三成が捕らえられた霊山・伊吹山名神高速道路から見える雪をかぶった伊吹山が好きです。名神高速道路を東へ走ると伊吹山が見えて、しばらく進むとトンネルを越えて岐阜県関ヶ原に入ります。
 
 本当は、賎ヶ岳にも登りたかった。以前1度仕事で登ったことがあります。頂上には戦い終えた1人の名も無い兵士の像があります。


 夏草や つわものどもが 夢の跡  ―芭蕉

 賎ヶ岳からは余呉も見えます。菅原道真出生にも関係するといわれている天女の羽衣伝説の残る湖が。



 あと、7日〜10日は京都五条で陶器まつりがあります。http://www.toukimaturi.gr.jp/
 私はこの辺バタバタしていて今年は行けるかどうかわからんけど、陶器に興味ある人、和が好きな人ならハマってしまうこの陶器まつり。とにかく安い! 数も多い! 全国の陶器がある! 作家さん製作のヨソでは買えないオリジナル陶器なども手に入ります。夜遅くまでやっておりますので、よろしければどうぞ。

 「宗教」とか「哲学」とか「崇拝」ではなくて、ただ「信仰」だけがある場所で、その想いを目の当たりにして感じたことは今は上手く言葉に出来ません。

 ただ、手を合わさずにいられないものがその土地にはあり、そこに来られたことを幸福だと思います。

 私がお寺や仏像を追い続けることは、「救い」を求めているのだというより、何かを探しているからのような気がします。その探しているものが、今日は少し見えたように思えます。

 画像の「赤後寺」の千手観音様、機会がありましたら是非実物をご覧になってください。