果てしない吹雪の村

 記・2005.12.12

 
 《以下の文章は、私がまだ街に戻る前、不本意な形で実家に居た頃、この地を出たい出たいと思いながら鬱々とした日々を過ごしていた頃にmixiに書いたものです。これから少しだけ、過去に書いたものをUPします。田舎に戻り、もう一度出たいと思い続けて2006年の夏に何とか脱出しました。いろいろしんどかったけど、人生の中で一番「生きよう」としていた時期だったかもしれないです。今はもう書けない文章ではあるけれども、もう一度、私も「生きよう」という気力を取り戻したいんという意図もあり、今更ですが、UPします。》











 会社に(注・当時派遣社員として勤めていたあるメーカー)、新潟出身の娘がいて新潟よりここの方が寒いと言っていた。小学校や中学校の頃は、しょっちゅう大雪警報が出て学校が休みになっていた。昔は今より雪が多かったのもあるが、小学校の時は冬は体育の授業が無かった。週に2日、まるまる山でスキーをするのがその代わりだった。学校からスキー場まで歩いていけた。

 勿論車は、スノータイヤ。ノーマルタイヤは自殺行為だ。

 寒い寒い寒い。なんでこの土地はこんなに寒いのか。


 去年の冬、母親は目から血を流した。家に帰った母親を見ると眼が真っ赤でホラー映画状態でたまげた。寒さのあまり血管が切れたそうだ。その日のうちから回復して普通に仕事をしていたけど。

 家から最寄の駅まで7キロある。電車は一時間半に一本。車が無いと暮らせない。マクドナルドが出来たのも、ローソンが出来たのも最近の話だ。子供の頃はテレビでしか見たことの無いマクドナルドは夢の食べ物だった。
 コンビニに初めて入ったのは、高校3年生の時。大学入試で京都に出てきたときだった。今でもコンビニはローソンとミニストップ、ファーストフードはマクドミスドぐらいしかないので、セブンイレブンやモスの話をしても、通じない。大きな本屋も無い。大学入試の際に必要な参考書も大阪まで買いに行った。通える予備校も無い。都会の人間は、参考書も簡単に手に入り、学校帰りに予備校に通うことも出来る。それが悔しかった。なんでこんな田舎に生まれてきたんだろうと思った。

 大学に目的があって行きたいわけではなかった。家を出たかった。葬式や法事には、男と女では食事内容が違う。未だにそうだ。都会で自由に暮らしている人間には想像もつかないような保守的で陰鬱な土地だ。ここを出たかった。ここを出る為に大学に入った。それだけだ。

 どこに行っても知り合いだらけだ。すぐに情報が伝わる。人間関係がベタベタしている。平気で人の領域土足で入ってくる無神経さを、田舎暮しとやらに憧れる都会人は、「冷たい都会人と違って、田舎の人はあったかいね。」などと言うのだろうか。コンビニで立ち読みをしていた。それだけのことも、知らないうちに親に伝わっていたりする。監視されているようだ。皆、悪気はないんだろう。悪気が無いというのが一番たちが悪いのに。

 一生、帰ってきたくなかったのに。母親と一つしか年の違わない男に言われるままに金を借金して渡して、生活が出来なくなった。家賃も滞納し、金融業者が家や職場に恫喝の電話をかけてくる。実家に帰るしかなかった。本当は親にバレたら死ぬつもりだった。20代は、ずっと死ぬつもりで生きてきた。どうせ何もない。生きつづけていたって何もないから。けれども自分で死ぬ勇気も無く、事故に遭うか、誰か殺してくれないだろうかと思っていた。

 周りの人間は、普通に恋愛をして、普通に結婚をして家庭を築いている。私には、それが出来なかった。そういう生活を20代始めの頃は確かに望んでいたのに。どうしてできなかったんだろう。どうして、幸せを破壊するような男や、他に相手のいる男しか好きにならなかったのか。どうして親や一族の賞賛するような社会的にまっとな男と付き合えなかったのか。

 たくさん人がいる場所ほど、孤独を感じる。でも、知らない人ばかりの雑踏の中の孤独は寂しくない孤独だ。知りあいだらけの土地で、思ってもみないことばかり口にする日々の方が、ずっと寂しい。


 だから衝動的に一人旅に出る。一人旅なんて寂しくないの? とよく言われる。寂しくない。私は孤独を楽しむ為に、一人でどこかへ行くのだ。


 恋人が側にいれば、家族が側に居れば、友達が側にいれば、孤独じゃないのか? どんな親しい人と一緒にいても、ふとした瞬間寂しくなるときはある。別々の人間だからだ。一つにはなれない。一つになりたくて、でもなれないジレンマで、どうしようもない寂しさにとらわれるのだ。一緒に酒を飲んでも、セックスをしても寂しい。それはどうしようもないことだ。そしてその寂しさは、その人を失う恐怖の予感からこみ上げる寂しさでもある。


 だから、一人は寂しくない。二人でいるより、寂しくない。

 働いて働いて、それでも怖い。疲労しているのに、それでも来る仕事を拒めない。いらないと言われるのが怖いから。一体何に毎日そんなに脅えているのだろう? 死ぬつもりで生きてきたくせに。矛盾している。人に近づきたくないのに、人にわかって欲しがっている。

 会社を出ると雪が舞っていた。踊るように雪はぐるぐると舞う。都会の人間にはわからない、田舎の人間関係が心地よい人間にはわからない、この寒さ。この雪の冷たさ。早く、この土地をもう一度出たい。

 これからきっと毎日のように雪が降る。