あなたがお嫁にいくなんて

 友達って、戦友のようなモンだと思う。

 mixiのプロフィール欄とか、フリーペーパーなどで「友達募集!」とか書いてあるのを見ると、いつも「友達って、募集するもんなのか・・」と妙な気分になる。

 
 私は友達少ない少ないとよく書くけど、その少ないというのも何を基準にって話で、人から見たら「アンタ友達結構おるやん」って思われるかもしれない。人付き合いは嫌い。年々それが顕著になっていく。煙草と酔っ払いと人混みが嫌いなので基本的に飲み会のようなものには参加しない。敢えて新たに「友達」を作ろうとなんてする気もない。

 そんな愛想の無い生活をしていても、それでも生きていると、たまにポロっと、ポロっと、零れ落ちるように「友達」という存在が出来る。

 今現在、「友達」と思える人は、大抵がかつて一緒に仕事をしていた女の子達だ。同じ仕事をして、愚痴りあったり、時には喧嘩のようなことをしたり、一緒に戦ってきた「戦友」だ。だから私は彼女達の泣き顔を見たことがあるし、私も彼女達に泣き顔を見せたこともある。仕事という戦場で。


 少し前の日記にもちょこっと書きましたが、今私の周辺はマジに結婚ブームです。10月に身内含め5組の結婚話(あるいは事後報告)聞いたし、それ以外でも今年何人か知人が結婚した。
 

 Aちゃんは私より10歳下の「戦友」。とにかく明るくよく笑う娘で、彼女は仕事で知り合った人と数年の遠距離恋愛を経て九州にお嫁に行きました。
 彼女が関西を離れる日には「今日九州に行きます、名字も今日変わります。慣れない土地でホームシックにかかると思いますし、泣き言も言うと思います。その時は電話かメールしますので相手してやってください。」とメールが来た。

 生まれ育った土地を離れて知り合いは夫になる人だけという場所に行くAちゃんが、新幹線に乗り込む姿が浮かんで泣きそうになった。寂しいのは寂しいんだけど、そのことで泣きそうになるのではなくて、彼女の決意みたいなモノの潔さにウルっときたのだ。


 B子は、6歳下の「戦友」。クールで無愛想だけど裏表の無い面白い娘だった。彼女は仕事で行った北海道で出会った人と恋人になった。けれどもその後、彼女は永年の夢だった海外留学をして、恋人と離れ離れになり別れた。そして帰国して数年の後、詳しくは知らないけれども復縁して結婚し北海道に行った。

 「1度、別れたんだけど、、、でも、やっぱり好きだから」
 と、彼女は言った。クールで無愛想で醒めてて口の悪いB子からそんな「やっぱり好きだから」なんて言葉を聞く日が来るとは思わなかった。


 C子は夏にお見合いした人と秋には結婚を決めた。「不安は多いけど、彼を信じて、とりあえず前に進もうと思う」と、彼女は言った。


 30年と数年生きてると、さすがに「結婚」や「恋愛」を無条件に賛美なんて出来ない。「女の幸せは結婚すること!」なんてとっても言えない。周りには「結婚」や「恋愛」という渦に巻き込まれて傷を負って泣いている娘も多い。1人の人間が自分以外の人間と結びついて一緒に歩いていくということは容易いことではないことはわかるし、1人で恋愛も結婚もせずに生きていくことの方が幸せなんじゃないかとも思ってしまう。

 1人でいる方が寂しさを知らずに穏やかな人生を歩めるかもしれない。人を好きになるということは、世界に自分以外の人間を発見することだから、喜びと共に喪失する不安から来る寂しさも齎す。一緒に居ても寂しい。いっそ誰も好きにならない方がこんな痛みを感じて苦しむこともなかったのにと思う。人を好きになってしまったからこそ、狂いそうなほどの「嫉妬」という化物に飲み込まれてしまうこともある。


 苦しい苦しい苦しい。恋は苦しい。とっても苦しい。
 愛してると言われることも時には苦しい。その言葉に囚われて身動きできなくなってしまいそうで苦しい。けれどもその言葉が欲しい。あなたがここにいて欲しいと誰かに言って欲しい。そうして自分の存在を許したい。あなたがこの世に生まれてきてくれたことに感謝すると誰かに言われることが「愛されている」ということだから。
 
 
 生まれ育った街を離れ、遠くの知らない人ばかりの土地で新しい暮らしを始めた女友達たち。スーツ姿で仕事帰りにビールを飲んで、バカ話をしたり、仕事の愚痴を言ったりして笑ったり怒ったりしてた頃が懐かしい。九州も北海道も遠いじゃねーかよ、簡単に集まったり出来ないやんか。あんた達は「会いに来てね!」とか言うけど、なかなか行けないよ。近くまで行くことがあったら絶対に会いに行って昔みたいにおちょくってやる。

 そういうオメデタイ話だけやなくって、「結婚」や「恋愛」が齎したやるせない話や泣き声を、最近数人の女友達から聞きもした。泣き声を聞いても私はどうしてあげることもできない。「別れた方がいい」ということは簡単だけど、1度絡み合った「好きな人」との糸は容易にほぐすことも出来ないということも知っている。恋愛は「誰でもいい」ってモンやないから、ね。


 不安や苦しみを抱えながらも戦友どもは、「男見る目のない」私のことも心配してくれちゃったりなんかしてくれるので、こらうっかり同じこと繰り返して道間違えちゃったりなんかしてらんないなぁと自戒する。人の心配してる場合かよって。私が1番心配されてるらしいから。そらそうか。


 不安で怖くて泣きそうで安全な場所に引き返した方がいいんじゃないかと、時折うしろを振り返ったりしながらも、B子の台詞じゃないけれど「でもやっぱり好きだから」未来を誰かと作っていこうと前へ進む戦友たち。今度いつ会えるかわからないけれども生きている限り全ての可能性は無限に広がっているんだよ。

 
 私は冷酷な人間だから、自分の嫌いな人や、どうでもいい人がどんな目に遭おうと不幸になろうと全く胸は痛まないし同情もしない。
 世界がどうなろうと私の知ったこっちゃないけれど、私の好きな数少ない「友達」だけはどうか幸せになってください。
 知らない土地で、新しい生活を始め、あなたの信じる私の知らない男と生きていこうとするあなた達だけは。


 気持ちってのは、伝えないと伝わらない。って、当たり前のことやけど。
 「やっぱり好き」って思える人と、共に生きて幸福になって下さい。間違えちゃったなら、失敗しちゃったなら帰ってきて、またやりなおしたらいいだけのこと。あんた達が見かけによらずしぶとくて根性があるの知ってるから、大丈夫だよ。


 あなたがお嫁にいくのは、本当は寂しいんだけど、どうか幸福になってください。だから、もう「行かないで」なんて私は言いません。幸福になって、私に希望を見せてください。
 人と生きていくことの果てにある柔らかく暖かな未来を、絶望に囚われて足が竦んでしまいがちな私に見せてください。

 「やっぱりあなたが好きだから」と、その言葉を伝え合うことを忘れないで。