人は

 駄目だよ。苦しんでちゃ。
 苦しむために生まれてきたんじゃないんだから。


 私は餓鬼だ。あさましくて金金金とプライドかなぐり捨てて、ひたすら金に追われてガツガツ生きてきた自分の人生の美しくなさに、絶望的な気分になる。


 求めて求めて飢えて飢えて飢えるあさましい自分の人生は醜いと思う。褒められたい愛されたい求められたい必要だと言われたい、ああ、私は餓鬼のように欲望を貪っている。手に入らない欲望を。


 本当は、もっと美しい人生がおくりたかったのに。



 私は修羅だ。戦って人に勝とうとして、そうして「勝つ」ことでしか自分を保てない脆弱な人間だ。母性が無い女は戦って戦って疲れて疲れて疲れて、力尽きる。そして何も残らない。


 本当は、もっと穏やかな人生がおくりたかったのに。

 私は畜生だ。プライドかなぐり捨てて人にどう思われようとそんなことおかまいなしに地べたに頭が着くほどに卑屈になってこのクソ野郎と呪いながらもそのクソに従うしかできずに生きる。


 もっと楽な人生があるはずなのに。いつもそう思っている。餓鬼でも修羅でも畜生でもない、美しい人生が、あるはずなのに。


 そんなあさましい私だけれども、これだけは言える。


 人は苦しむために生まれてきたんじゃない。


 あなたは、苦しそうだ。とても苦しそうだ。どうして、あなたはそんなに苦しいの。


 捨てちゃえばいいのに。余計なものは、捨てちゃえば、楽になるよ。


 せめて、私が今、あなたに出来ることは、言葉を送ることだけだ。


 苦しまないで下さい。あなたの苦しそうな顔が、痛い。
 私は、痛い。


 あなたは苦しむために、生まれてきたんじゃない。



 私も苦しいよ。餓鬼のように、修羅のように、畜生のように、あさましく美しくない自分の人生を想うと、絶望的な気分に襲われる。

 私は、あなたの苦しむ顔が、痛い。どうしてあげられることもできなくて、だからこそ、痛い。


 せめて私が出来ることは、私というあさましくて美しくない、餓鬼のような、畜生のような、修羅のような人間の人生を曝け出して、あなたに言葉を送ることだ。


 苦しまないで、あなたは苦しむために、生まれてきたんじゃない。多分、私も、そうだ。苦しむために、生まれてきたんじゃない。

 私の手は、あなたに届かないから、抱きしめてやることができないけれども、せめてあなたに、私の出来る限りの力を尽くした言葉を送ろう。



 苦しまないで。