ラブレター

 前略

 今年は、全くと言っていいほど京都には雪が降りません。寒いのは嫌なんですが、季節感が無いのも、寂しいものですね。知人に聞いたのですが、うっすらと雪がかかった金閣寺はえもいわれぬ美しさらしいです。金閣寺の周りには鏡湖池という池があります。その名の通りに、鏡のように金閣寺を映す池なのです。雪の金閣寺と、池に映る金閣寺、想像するだけで酔いしれてしまいそうです。小学生の頃、叔父の本棚にあった三島由紀夫の「金閣寺」を読んで、火をつけたくなるほどの「美」とは、どんなものだろうかと興味を惹かれました。それから大学に入り京都に来て、こういう仕事をしていることもあり、金閣寺には何十回も訪れています。ただ、雪衣を纏う金閣寺というのは、まだ見たことがないのです。あなたは金閣寺を見たことがありますか。私は、「美しいもの」を見ると、火をつけたくはならないけれども、あなたに見せたいと、いつも思います。美しい景色、美しい花、美しい言葉を見つけると、あなたに見せたいと、いつも思います。

 私は、何故こうしてネットで一銭にもならない文章を書き続けているのでしょう。最初は、褒められたり、人に読んで貰えるのが嬉しくて書いていました。そうしているうちに、書くこと自体が、楽しくなりました、そのうちに、書かずにはいられないという激しい衝動に駆られるようになりました。
 そして、思い出したのです。多分、ずっと忘れていたのだけれども、私は、あの二本のAVを見た時から、「書きたい」と、思い続けていたのだと。


 その二本とは、
 平野勝之監督の「由美香」http://d.hatena.ne.jp/hankinren/20061202と、
 カンパニー松尾監督の「熟れたボイン」http://d.hatena.ne.jp/hankinren/20070108です。
 本当に、たまたま、なんですが、普段AVを見る習慣が無い二十代の私が、この二本に巡りあって、ただ、「おもしろい!」って、衝撃を受けただけではなく、狂おしいほど羨望を感じたのです。何に羨望したのかというと、「好きな人へのラブレター」を、こんなふうに、まるで関係が無い私まで巻き込んで、自分の「想い」を表現できることに羨望したのです。
 人の気持ちなんて変わるものだし、「好き」と言う気持ちは形の無いあやふやなモノで、どこに真実があるかわからない。真実だと思っていても、実は、嘘だったりすることもあります。人の想いほど、曖昧で移ろいやすいものは無い。いえ、人の想いだけじゃない、この世にある物全てが、そうです。だけど、その想いに時には縋ったり、時には生きる支えになったり、時には振り回されて絶望したり、人を天国に連れていってくれることもできるけれども、地獄に突き落とすこともできるから「想い」は、怖い。
 
 だから、私は、なるべく人を想わぬように生きていきたいと思っています。恋愛なんて、好き好んでするもんじゃないと思っています。振り回されて泣いて笑って苦しくなって、馬鹿みたいです。だけど、その想いが、何にも変えがたい至福の瞬間を齎してくれることをも知っているから、私は懲りずに、人を好きになる。

 私は、その、ちょっと、人から見ると、相当に「恋愛で痛い目にあっている」らしいし、自分でも「男を見る目がない」とか思ったりもするし、一生このまま誰とも、うまくいかないのかと絶望することも、しょっちゅうです。だけど、警戒したって、弱気になったって、暗くなったって、結局は、なるようにしかならないわけなので、あんまり悪い方向には考えないようにしています。人を想わぬように、恋をしないようにって気をつけていたって、好きになっちゃう時は、なっちゃうもんだし。好きになっちゃったら、ジタバタしたってしょうがないし。同じ過ちを二度と繰り返さぬように、自分も相手のことも見失わないようにプラスの方向に持っていくしかないのです。そりゃあ、いろいろと暗い気持ちになったり、落ち込んだりとかは、絶対にあるんだけど、それでも、やっぱり「好き」という気持ちは、自分にとってプラスの感情でありたいと思うのです。大事にしたい、宝物だと思うのです。だって、その気持ちが、「生きててよかった」と思えて、「これからも生きていこう」って、エネルギーになるから。

 いつかは失ってしまうだろうし、思い出したくもないような嫌な別れをするかもしれない、恨んだり恨まれたり憎んだり憎まれたりするかもしれない。実際に、私は、かって好きだった人を憎んだり軽蔑したりしたこともある。
 だけど、それでも、また性懲りもなく人を好きになって、「生き延びてこれて、あなたに出会えて良かった」と、思うのです。


 そういう一瞬でも存在した「想い」を、形にして、人を感動させて、その「想い」を永遠にすることができる人達に、私はずっと羨望し続けているのです。人の心を震わせるほどの「ラブレター」を作るという「至福」に狂おしいほど焦がれているのです。

 文章を書くとか、絵を描くとか、何かを表現することの動機は、人それぞれだと思います。
 ただ、私の動機は、「ラブレター」を書きたいということなんです。まだ出会っていないかもしれない、もしかしたら気付かないだけで、もう出会っているのかも知れない、かって好きだった人かもしれない、「あなた」への、ラブレターを。

 永遠など存在しない世界に、ただ一つ信じるものがあるとすれば、それは、あなたの存在、他には無い。あなたの存在だけが、宇宙の中で唯一私が信じられる真実で、その想いを私は何か形にして残しておきたいのです。だから、こうやって、誰が読んでいるのかも分からない文章を書き続けています。


 例年より気温は低いとはいえ、まだまだ寒いですね。風邪などひいておられないでしょうか。風邪気味だな、と思ったら、私は寝る前に体を温める為に生姜入りの紅茶を飲みます。葛根湯を飲むこともあります。
 早く春になって欲しいです。桜が見たいです。花が見られることのできる時期は一瞬だけなんだけど、それでも心待ちにしています。視界いっぱいに舞う桜を、幽玄としか表現しようがない夜桜を、あなたに見せたいです。あなたの目に映る夜桜を眺めることのできる幸福に私は浸りたい。

 だから、元気でいて下さい。とにかく元気でいて下さい。生き続けることは、大変なことも多いです。死にたくなることも、絶望することも多いです。だけど不幸になる為に生まれてきたのじゃないから、戦い続けて生き延びて下さい。元気で生き延びて幸福でいてください。

 私は、いつか、あなたに出会えるでしょうか。出会えると信じたいのです。絶望なんか、したくないのです。絶望することは、「死ね」と言われていることだから、絶望なんて、したくない。だから、いつか、あなたに出会えることを信じて、こうしてラブレターを書き続けています。今の私には、そうすることしか出来ないのですから。


 元気でいて下さい。
 幸せでいて下さい。
 生き延びて下さい。

 会いたい。


 
                                                       
                                               草々