雨の13日の金曜日、教会にて


 人生は、どうしようもなくて、やるせなくて、絶望的で、苦しくて哀しくて、それでも人は生きていかねばならぬから笑うしかない。
 恋をすることは天国と地獄の両方を手に入れることで、決して手に入らないものを乞うることでもあり、その先にはやはり絶望しかない。
 だけど人は恋をする。何故ならそこから味わう天国も地獄も絶望も人間に必要なものなのだから。
 それを歌うのが、シャンソン


 一番絶望していて毎日死にたいと唱えていた二十代後半に聞き続けていたのが、フランスのシャンソン歌手エディット・ピアフの歌だった。壮絶な人生を送り、ボロボロになり死んでいったけれども残された歌は、絶望という塵と芥の淵の中から咲き出でる蓮の花の如く美しい。
 蓮の花は泥の中より咲き出で、仏像の台座にも使われたり、とかく仏教と関わりの深い花である。私が2つのペンネームでどちらも「蓮」の字を使ってるのはそういうことです。絶望的なクソ塗れの世の中で生きていこう、と。


 13日の金曜日に、歌手であり友人のT君のライブがありました。彼はたまにシャンソン、あるいはジャズのステージで歌ったり、ボランティアで各地の老人ホームで懐メロを歌ったり、歌唱指導のようなこともしております。

 実は今回のライブには私も「特別ゲスト」(ぷっ)で歌わせていただいたんですね。人前でソロで歌うのなんて初めてのわたくしはめちゃめちゃ緊張しましたよ。仕事の関係でリハとかも出られなかったので何度かロンリーウルフカラオケ行ったりしながら、「歌う」と言いだしたことを後悔したり、逃げようかと本気で思ったりもしながらもなんとか無事に終えることができました。
 
 実は高校の時と、あと大学入って一ヶ月だけ合唱をしておったのですが、バスガイド仕事の時はバスの中で歌うのがどうも苦手でなるべく歌わないようにしているわたくしでございます。しかしロンリーウルフ(1人)カラオケはなかなか楽しくてハマってしまいそう。

 司会のFさんも友人で、当日はいきなり「バスガイドやってくださーい」と言われて、京都駅からバーチャルで案内をしてしまいました。
 ステージでも喋ったのですが、もともと私とT君は映画館で働いていた時に知り合ったのです。この夏で13年目に突入します。彼は一ヶ月しかバイトしていなかったのですが、その後もちょくちょく出入りしてお互いの友人なども巻き込み今に至る友人付き合いです。
 Fさんに、「Tさんの映画館時代のエピソードを教えて下さい」と言われて喋ったのが、「絨毯伝説」です。
 さて、絨毯伝説とは何かと言いますと、Tがアルバイトとして入社した日、上司がTと、女子社員C(彼女も今回ライブに来ていました)に、こう頼んだのです。

「この古い絨毯を捨ててきて」

 と。

 さて、映画館は京都の繁華街に面したビルの三階にありました。普通に考えれば、TとCの2人がかりで絨毯を階段で一階のゴミ捨て場に持って降りてという意味だと思うんですね。ところが、このTとCの2人はそろいもそろって、三階の窓から(繰り返し言いますが繁華街です)絨毯を投げ捨てようとしたらしいのです。

 そぉれっ! と、窓から捨てようとする2人を、

「何してんのっ!」

 と、上司が止めたらしい。

「え・・・何してんのって・・絨毯捨てろって言うから・・」

「繁華街のビルの三階の窓からそんな大きなもん捨てたら下を歩いてる人ビックリするやろ! 怪我さしたらどうすんねん! 下まで階段で持って降りてっていう意味! だいたい、2人おったらどっちかが止めるやろっ! 何2人そろってボケてんねん!」

 
 ・・・と、いう出来事があったんです。
 本人達は認めたがらないんですが、TとCは似た者同士で、私は「生粋の京都人って、皆こうなのか・・」と感嘆したものです。京都の人は未だに天皇が東京に行ったことを認めてなくて日本の中心は京都だと信じていると聞いたことがあるのですが、TとCもそんな感じです。日本の中心は京都。

 他にもTとCに関しては様々なエピソードがあるのですが、そういう場所で言えないことがほとんど。えへへ。向こうに言わせると、私も大概なことしてたらしいけど。えへへ、内緒☆
 
 あとね、T君がT君の友人の女性達(ファン?)に、私のことを、「この人、雑誌に書いたりしてはるんですよー」と、紹介したので、彼女達が、

「えー、どんな雑誌に書いてはるんですかぁ?」

 と、聞くのです。


 私「・・・・・」

 T「・・・・・」



 えへへ☆ それも、内緒☆
 笑ってごまかしました・・・・





 さて、アンコールはT君の歌う「愛の讃歌」でした。この歌は越路吹雪の歌う岩谷時子さんの訳詩「あなたの燃える手で、私を抱きしめて」が有名なのですが、もともとのエディット・ピアフの歌詞とはかなり違います。日本だと美輪明宏訳詩が、原詩に近い。
 「愛の讃歌」はピアフが恋人のマルセル・セルダンへに捧げた歌だと言われています。恋多きピアフが、ただ1人愛した男が年下で妻子のいるボクサーのセルダンだった。しかし彼はピアフに会いに行く途中で飛行機事故で亡くなってしまうのです。その後のピアフは交通事故を繰り返し、麻薬中毒になり、心も身体もボロボロになり愛するセルダンの待つ天国へと旅立ちます。
 彼女の歌は今もフランスはもとより世界中で歌われています。

 その他、T君が歌ったのは美輪明宏の「ヨイトマケの唄」。こちらも名曲で、なぎら健壱、新井英一、桑田佳祐Breath Mark泉谷しげる酒井俊米良美一、新結成時のザ・フォーク・クルセダーズ大竹しのぶ大西ユカリと新世界などがカバーしております。
 T君が老人ホームで歌った際に、あるお祖母ちゃんが感極まり泣き出したとか。

 他にも加藤登紀子の「百万本のバラ」など。この歌も絶対に実ることのない愛の切なさと幸福を唄った歌です。

 と、こんな感じでシャンソンと言ってもわりと知られている歌が多かったのでいろんな方に楽しめていただけたんじゃないかな、と思っています。


 あと、ネットの片隅で、最近別の名前でわたくしはちょこっと旅行情報サイトでちょこっと京都案内などを書かせていただいたりもしています。


 ライブで歌うにしろ、お前は何がしたいんやという感じなんですが、何がしたいんかわからん人なので、目の前におもしろそうなことがあったら本能でそこに突っ込んでいこうかなぁ、と。そしたら結果的になんか目の前に見てくるかなぁという気もする。ほんまに私は何がしたいんか自分でわからんのです。ただ、楽しいことだけやりたい。楽しくないことはやりたくない。そうじゃないと生きていくのが辛くなるから。

 私がこの世で最も敬愛する作家、山田風太郎座右の銘が、


「やりたくないことは、やらない」


 だそうです。




 ・・・・・・先輩(実際に高校の先輩なのだが)・・・・素敵ですっ!



 しかし生きていく上で、やりたくないことをしないといけないことも多々あるので、だからこそ私は「楽しくないことはしたくない、楽しいことだけやりたい」のです。そして「おもしろそうだ」と思ったことにはとりあえず、首を突っ込む、と。楽しくなくなったら、止める。苦行のような人生は嫌だ。


 あなたは何がやりたいのですか。

 楽しいこと、おもしろいこと。
 それ以外は、したくない。
 
 結構それって、自分自身が切り開こうとしたら、かなりエネルギーがいることなんだけどね。



エディット・ピアフ愛の讃歌



 

美輪明宏ヨイトマケの唄