娯楽という才能 「片腕マシンガール」 井口昇監督

hankinren2008-09-02




 タイトルロールが流れ、館内に明かりが灯っても、席を立てない。頭の中が、現実の世界に戻ってこられない。身体を動かせない、心も身体もさっきまでスクリーンに映しだされていた世界の中に入ったまま戻ってこれない。昨日までの自分じゃない、数時間前まで抱えていた焦燥感や爆発寸前だった怒りは、いつしか消えていた。
 そんなふうに、自分と、自分をとりまく世界が変わってしまうほどの映画を、今までいくつ観たのだろうか。

 映画館で働く特権として、映画が金のかからない娯楽だった時期が数年あった。あの頃は、時間の許す限り映画を観ていた。そんな中で、一番衝撃を受けた、自分のベスト作品は、ブルース・リーの「燃えよドラゴン」です。今は無き、京都三条河原町上ルの朝日シネマでのリバイバル上映、ただ、有名な作品だったから暇つぶしに観にいっただけで、実は期待なんて全くしていなかった。

 上映が終わっても、席を立てなかった。すっかりアタマがブルース・リーになっていて、悪(?)と戦う気まんまんになってしまった。今でも神戸南京街に行き、ブルース・リーグッズを見かけると、惹かれて店内に入ってしまう。ブルース・リーは、私のヒーローだ。リーと結婚したいとか、リーと寝たいとか、そんな種類の欲望ではなくて、未だに彼は私が「こうなりたい男」だったりする。自分の中の、「男」の部分が、「世界一カッコいい男」に焦がれている。私は、俺は、ブルース・リーになりたい、強いってことは、なんてカッコいいことなんだ。それを教えてくれたのは、ブルース・リーだった。アチョーっーーーっ!!


 映画は、世界を変える力を持っている。人を笑わせ、泣かせ、心をゆさぶるもの。
 映画館で働いていた頃、映画を上から目線で理屈ぶっこいて語りたがる「映画通」なヤツらが嫌いだった。映画を観終わった後には、誰かと語り合いや分析なんてしたくねぇ。ヌンチャク振り回して、怪鳥音を発して、戦ってみてぇ。

 優れたホンモノの娯楽作品を観て、理屈ぶっこいて語りたがって評論家ぶって粗探しをするヤツはアホだ。
 娯楽映画っつうのは、語るために作られたんじゃねぇの。笑うために、泣くために、心を揺さぶり熱くして、明日からまた生きようと思うために作られてんだよ。





 昨夜、京都東寺にあります「みなみ会館」で井口昇監督の「片腕マシンガール」先行レイトショーを見てまいりました。映画の日なんで千円で、しかも監督の舞台挨拶付き! しかし京都の映画館は、私が働いてた頃と随分入れ替わってしまったんですが、みなみ会館は頑張ってるなぁ、ずっと頑張ってくれよ、みなみ会館、お前が好きだよ、みなみ会館、交通の便がいいし、ライトアップした東寺も見られるよ、みなみ会館
 映画館で働いてた時代は、「みなみ会館や朝日シネマが好きそうな人種」(どちらもミニシアター系です)ってのを、ちょいと遠目に見ていたんだが、気がつけば最近の私は、みなみ会館ばっか行ってるよ。って、そんな頻繁には行ってないんやけど、どうもシネコンは、「映画館」じゃないような気がするのねん。あれはあれでええ環境なんやけど。


 井口昇監督を知らない人は、ココを読んでね。AVではスカトロやレズを撮っていた方です。エロ子さんの「人生を変えた人」「生きていく希望」である平野勝之監督作品の中でも、ウンコを浴びてたりしておられました。
 私は、井口監督の「クルシメさん」が好きです。「傷」に脅え、ぐずぐずと生きていく2人の女の子の寓話。男子禁制の世界。

 私は真性レズビアンではないけれど、女が好きで、(恋人以外の)男といるより女といる方が好きで、女に恋したことは何度もあるし、女とセックスできるだろうし、多分、バイセクシャルなんだろうと思う。
 精神的には、男より女の方が好き。男という生き物は、実は好きじゃない。男とするセックスは好きだけど、男という種類の生き物は、苦手。女の人はキレイで、さわってみたいと思う。いい匂いで、やわらかくて好き。男になってみたいと、いつも思う。男になって、自分の好きな女の人と恋人同士になりたい。
 私の恋人になる男の人は、私が女を好きだというと、驚く。その人の前では、女の自分しか見せてないからだろう。女が好きな「男」の自分は、好きな男の前では見せない。二重人格のようだと思う。好きな女の前では、結構、男になってるのに。

 女同士で飲んでいる時に、ナンパとかされっと、非常にうぜぇ。あたしらの時間を邪魔すんなよっ! と思う。男子立入禁止なんだよ、って。またそこで、知らない男に尻尾を振り出す女がいると、腹が立つ、嫉妬する。結局男の方がいいのねって。

 いっそ、真性レズビアンになりたいと思ったことは何度もある。男という存在が苦手で好きじゃないのに、男とするセックスが好きで、男という存在を必要としてしまい、男を見る目が無いくせに、男を好きになる中途ハンパな自分が嫌になってしまって、身も心も本当のレズビアンになって、女しかいない世界に住みたいと思ったことがある。

 勝手な話だが、自分には男がいても、女友達が結婚したりすると嫌だ。「俺の女を奪われた」って思って、寂しくて悔しい。「おめでとうなんて言わないから」と、何度か女友だちに言ったことがある。男子立入禁止区域に入るなって、そこから出るなって。
 女に囲まれてると嬉しい、女にモテると嬉しい、女同士のこのふわふわした世界に男は入ってくんなよ。(そういいつつ、自分は好きな男が常にいるし、その存在を強く必要としてるとこが、勝手)


 井口監督は、そんな「男子立入禁止」区域の世界を描く。


 そんな井口監督が、アメリカ資本で製作された「片腕マシンガール」を、見てまいりました。Wikiには「スプラッタ映画」とあるし、相当血がドバドバということを聞いていたんで、スプラッタやホラーが苦手なわたくしは、ちょいとビビリながら参りました。ちょうどその日の朝、生理が来て、私も血がドボドボやったしね(誰も聞きたくねぇ話して、ホンマすんません)生理のせいで、ちょいと体調優れなかったけど。

 客は入っていたけれども・・・・女子率ひくくぅううっ!! 居てもカップルの片割れとかで、女一人なんで目立つじゃねーかよっ! って、毎度のことやけど。
 映画ファンの女子とかもっと来ると思った。だって千円で舞台挨拶見られるんですよっ! 

 映画の内容ですが、あらすじHPで見てね。あと、話題の予告編は、こちら



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 映画の感想ですが、すんげぇ楽しめました。忍者出てくるし(山田風太郎ファンだから忍者が出てくると嬉しい)、血みどろで、倫理とか、いろんな価値観をぶっ壊してて小気味良く、女の子は勿論キレイで可愛くて強くて、「男子立入禁止」テイストも存在して、素敵に暴力的で、笑える大娯楽作でした。


 人生に必要なことは、笑うこと。
 そして、「真剣にふざける」こと。
 そんなふうに思えました。
 命がけで、真剣にふざけて、笑えて、楽しすぎて涙が出てしまうこと。
 映画っていうのは、人生に必要な、そんなことを齎してくれる。そういう娯楽を生み出せる人というのは、本当に幸福な存在だと思うし、羨望する。

 そんなわけで、真剣にふざけてみようと誓ったエロ子さんでした。
 あと、戦う強い女ってのは、やっぱええわ。かっちょいい。ベタベタと泣いて媚びて弱い子ぶって甘える女より、「オトコマエ」な女の方が、やっぱかっちょいいわ。女達よ、「オトコマエ」になろう。そして、男は、「オトコマエ」な女を怖がるなっちゅうねん。(だけど甘えんなよ)オトコマエな女だって、泣かないわけじゃない、ただ、泣く時は盛大に、身も蓋もなく泣くだけだ。

 「スプラッタ映画」と分類されたくないです、個人的には。超娯楽作品、傑作やと思います。腐った気分になってるヤツ、自暴自棄になりそうなヤツ、苦悩した自分に酔ってるヤツ、とにかく何もかも嫌でうんざりして爆発寸前で叫んでしまいそうなヤツ、失恋したヤツ、上司に不条理な怒られ方をしたヤツ、金のねぇヤツ、男のいねぇヤツ、女のいねぇヤツ、とにかく楽しみを欲しがってるヤツらは、観てくれよ。


 映画を観終わったら、散弾銃やチェーンソーで、憎たらしいヤツ、殺したいヤツを殺戮する夢を見よう。憎たらしいヤツいませんか? 私はたーくさん、いますよ。しばきたいヤツ、殴りたいヤツ、蹴りいれたいヤツ、ウンコ食わせてえヤツ。
 社会性があるふりをしているし、クソみてぇなヤツらのために犯罪者になって自分の人生を棒に振りたくはねぇので、実行はしませんけど、アタマの中では、ボコボコにいろんな人をどつきまわしておりますので。

 真剣に、命がけに、ふざけた楽しい人生を送るために、この超娯楽作品を観て欲しい。
 特に女子っ! なんでこんなに女率低いんだっ! 寂しいから女の子いっぱい来てよっ! って昨夜思ったわよっ! なまぬるい恋愛ドラマばっか見てんじゃねーよっ! いざとなれば、女だって、愛する人を守るために戦わなくちゃいけないのだから、強さってのは、カッコいいことだということを観においでってば。

 
 真剣にふざけて楽しく生きるためには、「娯楽」という才能を持つ人達の世界に触れることが必要。
 だから「映画」は、存在するのですよ。
 



 まだまだ、コチラで上映中です。
 ちなみにチラシのイラストは江口寿史
 京都みなみ会館では、6日からの上映です。
 ワシももう一度、スクリーンで観たいです。
 真剣にふざけて生きる覚悟を決めるために、気合をいれるために観たいです。