ホテル
男が生活する空間で、セックスをしたことがない。他の女が居るから、妻が居るから、友人と一緒に住んでるから、遠いから、そんな様々な理由で。
妻が留守だから来る? と誘われたこともあるが、他の女と共有する生活空間など悪趣味だと思い断ったこともある。
だから男と会うのはいつもホテル。ラブホテルだったり、普通のホテルだったり。セックスする為の空間でばかり会っていると、まるで自分が安手の娼婦か、セックスだけの女のような気がする。
ホテルは好きだ。非日常的な空間。行為を済ませ何事も無かったのように引きづらずに外に出る。外に出ると大抵明るい。日差しが眩しく目がくらむ。
男の生活空間を知らないから、手料理などもほとんど作ったことがない。ましてや男の衣類を洗濯したり、男の内面が見透かすことの出来るような本棚も見たことがない。男が普段どんな音楽を聞くのかとかも、よく知らない。どんな布団と枕で寝ているのかとか。
それは結構気楽な責任の無い付き合いなのかも知れないけど、そんな付き合いばかりが続くと、生活空間に招かれることがない自分が、何か禍々しいものなのかと思う時がある。
妻や他に女が居ない男と付き合ったこともあるのだけれども、友達と同居しているからと、またしても生活空間には招かれなかった。妻の不在に部屋に呼んでくれた男は、私のこととは関係なく離婚して、結婚してくれないかと匂わせてきたが、嘘の多いその男のことを信用する気などなれなかったし、他に好きな男がいたから返事はしなかった。どうせ本気で言ってるのではないと、その時は思っていたし。
料理は好きだ。人に食べてもらうのも。ただ、それを要求されても困る。ただの男友達や、女友達の部屋なら行くし、料理も作る。彼氏に手料理作って食べさせてあげたいと思わないのとか、好きな人と一緒に暮らして結婚したいと思うのは当たり前じゃないのと言われると、昔そんな日々を望んだこともあるような記憶もあるが、そういうふうに私は望まれないから、いつのまにか望まなくなったんじゃないかと反論したいような衝動に襲われる。
あなたは寂しいことばかり言うと人に言われる。
これから先もっと寂しくなる、一人でいるのは寂しいよと、年をとったらどうするのと。
独りに馴れた自分、お前は一生独りで生きていかねばならぬと自分で呪いをかけ続けてきた独り上手の私には、孤独という幸福があると言い聞かせる。
それでもホテルでの逢瀬の後、明るい太陽を浴びると、たまらなくなる時がある。
私は、弱くて弱くてどうしようもないぐらい人間で、いろんなことから逃げている。
寂しい自分。
卑怯な自分。
死にたい自分。
いろんなことから逃げて、身を守る鎧を頑丈にして、強くなれ強くなれと言い聞かせている。