君が僕を知ってる

 そんな感じで相変わらず雨降りでございます。
 台風でお仕事もキャンセル多発で妙に昨日今日とバタバタしておりました。そら台風の中旅行行かんわな。

 私もせっかくの連休、久々京都ぶらぶら歩きをしようと思っておりますが、とりあえず明日はこの天気では引きこもるしかないわねん。
 今日電車に乗ると、私の大好物の浴衣姿の女の子がおりました。祇園祭かな。でも今日は雨やから濡れまっせお姉ちゃん。
 祇園祭は明日が宵々山、明日が宵山、明後日が山鉾巡行でございます。映画館勤めてた時代に、仕事終わって皆で行って以来、行ってないなー。


 朝、出勤準備しながら、おはよう朝日(関西ローカルの番組)見てたら、市川海老蔵が風呂場で怪我したってニュースやってまして、思わず高校時代から20年の付き合いの友達に「海老食べたくなるね」ってメールなどしておりました。彼女の家の近くでは海老の安いスーパーがあるそうで、よく海老をどう料理するかみたいな話をしてるもので。

 海老もサトエリこました男も実はどうでもいいのですが、この友人がねっ! 明日入籍するんですよっ!! いえ、もう相手の男(私に憎まれていることをイマイチわかってないらしい)と一緒に住んでるから別に今更ガタガタ私が言うことじゃないんですけれどもね。言ってるけど。
 彼女の入籍の話から、共通の友人のある婚約解消事件の話になりました。


 もともと上記の友人と私とは高校のクラブの先輩後輩なのですよ。同じクラブ内に、Aというドラえもんのような体型の高校生とは思えないオッサンくさい男がおりました。彼をひとことで形容すると、「戦後の闇市を生き抜いてきたような雰囲気の男」と言った感じでしょうか。直球勝負で生きていて、皆の兄貴分ぽい人でした。私の高校は田舎の進学校で、彼のようなタイプはわりと珍しかったです。妙に老成してるけれども非常に単純で喧嘩っ早くて。早く働きたいからっちゅうて彼は進学せず高校出てすぐに就職しました。

 
 今から10年以上昔の話です。Aが結婚するという知らせを聞きました。相手の女性は、彼より一つ年下の東京の女性でした。(ちなみに彼は関西在住)会社の研修で知り合い遠距離恋愛を実らせゴールインとのことでした。結婚式は彼女が好きな京都の神社で、新婚旅行はどこだったか忘れたけどどっか海外で、そして結婚に備えて彼女は仕事を辞めて関西の彼の部屋で同棲を開始しておりました。


 彼女は東京の人なので、関西に知り合いが居ないから、仲良くしてやってくれないかと頼まれて、結婚式のちょうど一ヶ月前にAとAの婚約者と私と三人で神戸で食事をしました。何故ワシかと言いますと、彼女とワシが同じ年なのと、彼女は大変京都が好きなので京都の話が出来るっちゅうことで私が誘い出されたわけでございます。

 ほんで三人で楽しく食事をして、Aと彼女が同棲してる部屋に行って、二人がいろんなところに行ってデートしている写真がテンコ盛りのアルバムなどを見せて貰いました。翌日は家具を買いに行くのだと二人は語っておりました。
 ほんで、またねーとバイバイして私は帰宅したのでございます。


 翌日の夜。
 私は、Aの同級生であるB子という女性と電話で話をしておりました。ほんで、私が昨夜AとAの婚約者と3人で飯食ったよーと言ったら、B子は、非常に言いづらそうにこう言うのです。


 「あのね、、実はね、、、A君、結婚やめたの、、、」


 「??? へ ???」
 
 

  え・・・・いや、私昨夜3人で、飯食ってて、その時は二人はこれからの結婚生活について普通に語ってたんやけど・・・・私がAの高校時代の話とかすると、Aが婚約者に、「俺の昔の話聞いて、結婚止めるとか言うなよー」とか笑いながら言ってたりして・・・彼女も笑ってたし・・・


 もう、おにゃん子クラブ吉沢秋絵の「なぜ? の嵐」状態でございます。(古い・・・)ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ??????? 奥さんっ! どういうことやねんっ!


 私が二人と別れてから一晩の間にナニがあったか知りませんが、本気と書いてマジに二人は式の一ヶ月前に婚約を解消したのでした。私、なんか無意識にヤバいこと言ってしまったんやないかと相当気にしましたよ・・・Aの過去の女関係の話とか(知ってるけど)してない筈やけど・・・。


 その時点では詳しい事情はわからずだったのですが、それからAは大変やったのです。結婚式と新婚旅行のキャンセルでしょー、それから二人は一応職場結婚みたいなもんやったし、彼女の方は結婚するから仕事辞めてるわけやし、何よりも双方の両親への説明やら何やら。親には怒られたらしいし(そらそうや)、Aは白髪が増えたと言うておりました。Aの兄は、「成田離婚にならんで良かったやないか」って笑ってたらしいが。あ、関西やからホンマは成田や無いんやけど。


 何よりも周りがビックリよ。
 つーか、私が一番ビックリっすよ。
 だって、婚約解消の前夜一緒に居て、その時はもうすんごくナチュラルに結婚生活の話とかしてたし、仲も良さそうやったしよ。


 そして数年後に、Aは、私が3人で会った翌日の夜に電話で喋っていたB子と結婚したのでした。実は私はこの2人が結婚すると皆に話す前から、B子がAを好きなことは気付いていたのでした。他の皆は「ただの友達やと思っていたっ!」って、エライ驚いておったが。

 ホンマのこと言うと私は、Aに婚約者が居た時からB子がAのことを好きなのは薄々知ってたのですよ、なんとなく。私、AとB子と3人で遊んだこともありましたんです。でも、当時B子には彼氏が居たし(別れたけど)、Aは別の女性と結婚するっちゅうんで、深くそのことについて考えてはいなかった。Aの結婚の話題は、B子も自然にしてたしよ。

 ついでに言うと、B子は有名大学卒の公務員で背が高くてスラっとしていて色白の和風美人で、高校の時からいつもクラス委員を勤めるような人でした。優等生なんだけどお高くはとまってないし皆に優しいし何となくいつも輪の中心にいるような人で、はっきり言ってモテてる人でした。面倒見が良いんで、私も懐いて相当甘えてたし。好きだったんだよっ! 周りにもバレバレやったけどっ!
 

 AもB子も相当サバサバした性格なので、よく2人で遊びに行ったりしてても皆、ただの友達やと思っていたみたいです。ふっふっふっ、、私は見抜いていたよ、、、B子の想いに、、、


 それはともかく、その時になって数年前のAの結婚式一ヶ月前の婚約解消事件の真相が明かされたのですっ!! 奥さんっ!!


 私とAとAの婚約者が3人で飯を食った翌日に、実はB子はAを呼び出したらしいのです。
 彼女は、結婚を控えたAの前で、想いを抑えきれず泣きながらこう言ったそうです・・・。



「結婚しないで・・・・」



 ぎゃーっ!! び、B子っ!! さっ、最終兵器をっ!!



 このB子という人は、非常に普段は物静かでクールな人で、恋愛をしても浮ついた素振りを見せない人なので、彼女がそんな行動に出ていたことを知って周りも驚きまくり。しかも相手はドラえもんみたいなオッサンやし。

 私はB子に聞いたのですよ。「でも、Aは結婚決めてたし、そんな告白したら友達ですら居られなくなるかも知れないやん、そういうのは怖くなかったの?」って。だって、現実にAは二股とかをかけていたわけではなく、当時はB子とは本当に単なる友達で、婚約者と結婚するつもりだったんですもん。
 B子の答えは、こうでした。


「結婚するのはわかってたし、それを止められるとも思ってなかったけど、あの時は私も相当思いつめていて、例え友達じゃ居られなくなっても、自分の気持ちを伝えずにはいられなかった。自分の気持ちを抑えることが出来なかった。」


 って。
 ぎゃーっ! 


 そしてAは、その告白を聞いてどうしたのかと言いますと。
 彼曰く、

 「自分の本当に気持ちに気付いた。」


 だ、そうです。お姉さん赤面。
 そして、彼は泣くB子に、「ちょっとしばらく待ってくれっ!」と言って、即婚約者と話し合って婚約を解消したのでした。その後、後処理に帆走して白髪を増やし疲労するAをB子が励まして(笑)ほとぼりがついた頃に、Aの方からB子に「好きだ、付き合ってくれ。」と告白して数年の交際の後に無事に結婚したのです。ちなみに子供も出来て今も結婚生活は続いております。


 この話を聞いた時に、周りは「情熱的な略奪愛!」「ドラマみたいっ!」と言っておりましたが、Aという人を知っている分「略奪愛」とか「ドラマティック」という言葉が似合わないので変な感じなのです、、、それはともかく。

 2人は結ばれてめでたしめでたしと、話としては綺麗に終わりましたが、現実は大変なわけですよ。Aの婚約者は何故かすんなりと婚約解消に同意してくれたから(彼女自身もこのまま結婚していいのだろうかと躊躇する気持ちが内心あったらしい)いいものを、相手の両親は激怒するし(そらそうや)披露宴の招待状とかも出してるわけですしね。B子自身も、自分の告白によってAが後処理に帆走して疲労するのを見ているのも穏やかではなかったでしょうし。

 例えば世の中には、「人のもの」が好きで、わざとそういう男に近づいて関係を壊して達成感を得るのが好きな女の人も少なくないわけですが、B子は決してそういう人じゃございませんの。

 別の友人とも話したのですが、自分がB子の立場だったら、そういう行動に出られるかどうかと言えば難しい。リスクが多すぎるし、まあリスクとか言ってる時点で行動に移すことはないんだろうけれども。

 この話だけ聞くと、そりゃあいろんな解釈が出来るでしょうが、B子という人を知っている者からしたら、「(あんな男だけど)、B子は、よっぽどAのこと好きだったんだねー。」というシンプルな感想しか出てこない。B子が恋愛依存症だったり、略奪好きだったり、そういう恋愛テンションの高い人ならともかく、全然そういう人じゃないもんで。ホント、めちゃくちゃAのこと好きなんだなーとつくづく思うのです。結婚後、Aが安定した職業を辞めて転職しても彼を信用して全面的に協力してたし。彼女自身もスキルアップして収入もそこそこある人だからこそってのもあるんだろうけれども。
 あんまり愚痴を言わない人なので実際のところはわかんないんだけど、惚れてて信用してるんだろうなぁとは、傍から見ていて思う。最近会ってないから近状はわからんが。
 
 
 しかし、自分が婚約者の立場やったら、たまりまへんわなっ!! Aの場合はそんなこんなで婚約者が大人しく身を引いてくれたから良かったようなものを、普通なら泣くでっ! 喚くでっ! 訴えるでっ! 憎むでっ! 慰謝料払わせるでっ! だって、結婚しま〜すっ! って言って会社も辞めて周りにも言ってて、それで他の女に略奪されて婚約解消って、そらかなわんがなっ!!
 Aは、婚約解消後、一度も結婚する予定だった人とは連絡も取ってないし会ってもいないって言ってたけど、、どうなったんでしょうね。まあAも、いろんなことを配慮したからこそ、B子の事はずっと公にしなかったんだけどね。



 AとB子の披露宴の友人代表スピーチをしたのは、実はAの友人だけどB子のことをずっと好きだったC君という人でした。C君のB子への気持ちを知っててスピーチを依頼したAも、アレだけど。まあその話は、C君自身も明るく皆の前で「結婚聞いた時ショックだったよーっ、しかもスピーチ頼まれるしー」って笑い話にしてましたけどね。
 他にも、高校時代にAと付き合ってた人(A自身は付き合ってはいたけれどもセックスはしてないと言い張る)とか、その前にAが片思いしていた人とか、(Aという男は非常に惚れっぽいのです。単純だから。ぷっ。)C君以外にも昔B子を好きでフラれた人とか、(B子はモテてたので)皆が披露宴に集結してお祝いの歌うたいましたよ。皆、同じクラブやったもんで。誰がAと昔付き合ってたとか、B子に誰がフラれたとか、そういうのも皆知ってる話やから、カラっとしたもんでした。A自身も、自分の過去の話とか全然普通に話してるから本当にサバサバしたもんで、B子も全部知ってるしね。



 でも、やっぱり凄い話だ。何がって、B子が。

 友達でさえ居られなくなるのに、結婚を一ヶ月前に控えた男に泣きながら「結婚しないで」って言うのがすげぇ。無謀だし、ある意味極悪だ。だって、例えAが婚約解消せずにB子をフッたとしても、相当彼の心を揺さぶる行為ですもんね。そのままAがあの時結婚しても、B子以上にAが平気で居られなかったでしょう。
 もし私が結婚決まってて、式の直前に、どうでもいい男ならともかく、大事で仲良くしている「友達」の男に「結婚しないで欲しい」って真剣に泣かれちゃったら、、、、どっちにしろ平気じゃいられないなぁ。何てことを言うんだ、あなたがそれを言うことによって友達じゃいられなくなるんだよって、怒るかも知れない。だけど、そういういろんな自分を取り巻く物事を超えて、「好きだと伝えずにいられなかった」って言う気持ちの強さに、やっぱり平気じゃいられなくなると思う。自分のことを、めちゃくちゃ好きな人を目の前にして、その人が泣いてて、そりゃあ心を揺さぶられるだろうね。


 結果はともかく、その時のB子の行動は、無謀だし他人への配慮が無い。男の前で涙見せて女の武器を見せるのは女の計算だという解釈も出来るだろうが、それにしてもリスクの大きすぎる賭けですよ。極悪ですねー。思いっきり自分のことしか考えてない勝手な話ですよ。


 だけど、例え周りへの配慮が無くても無謀で馬鹿な行為だとしても、全てを超えてそう告げずにはいられなかったB子のAへの「好き」という気持ちは強くて美しくて羨望してしまう。「好き」という気持ちはホンマに理屈じゃない。理屈を超えたところに存在する。理屈なんて自分を守る為の実態の無い物に過ぎないと思うから。「好き」という気持ちだって、実態が無いっちゃあ無いんだけど、それでも確かに理屈よりは強くてエネルギーを持ってるもんですよ。


 馬鹿で無謀で極悪だけど、その時のB子の行動は、カッコいいと私は思う。
 
 Aっちゅう男も、非常に直球勝負でシンプルに生きている男なので、B子の剛速球をそのままミットで受け止めてくれたんだろうし。すんごい暴投だったかも知れないけれども。
 愛だねぇ。変化球ばっかり投げてる場合じゃねぇよなぁ。


 なんとなくAとB子の話思い出したり、通勤で雨の中を歩いていたら、RCサクセション聞きたくなったんで、家に戻って久々聴いてるわけです。
 君が僕を知ってるhttp://listen.jp/store/artword_1000560_6378.htm
 雨あがりの夜空にhttp://listen.jp/store/artword_1000560_1746.htm


 シンプルでストレートで、剛速球の直球で、いい歌だねぇ。カッコいいねぇ。


 恋愛だけの話やなくって、全ての人間関係でも仕事でも、例えとんでもねぇ暴投になったり、時にはデッドボールになっちゃったりしても(余談ですが、デッドボールを死球って日本語にしたのも正岡子規なんですね。ベースボールを野球という言葉に訳したのは有名な話やけど。松山行きてぇっ)剛速球の直球投げて、それをミットで受けるのが、「愛しあってるか〜いっ? (by忌野清志郎)」って問いの答えだね。
 敬遠も変化球も必要な時もあるけど、やっぱり直球でストライクとるのが、一番カッコいい。


 そんなわけで、明日入籍する友達に、


「結婚しないで・・・・(涙)」


 と、訴えてみました。
 勿論、予定通り明日入籍するそうです。
 


 いやっ。