花葬



 結婚してはじめて身に着けた喪服は、団鬼六先生の葬儀のために買ったものだ。

 5月6日、亡くなった団先生のお通夜と告別式のために東京へ行った。
 このところ、毎月東京に行っている。3月は団鬼六賞の授賞式で、4月は団鬼六先生とのお花見と代々木監督のイベントのために、そして5月は、団鬼六先生とのお別れのために。6月もとても重要な用事のために東京に行くことになりそうです。

 団先生のお通夜と告別式は増上寺で。
 増上寺に行くのは初めてで、東京タワーが間近だった。団鬼六賞優秀賞受賞の深志美由紀さんと待ち合わせてお通夜、告別式へ両日足を運んだ。
 ジャズが流れ、花に囲まれた団先生の遺影があった。
 様々な方がいらしていたけれど、喪服に身を包まれたひときわ艶やかな一人の女性が、そこにいらした。

 谷ナオミさん。

 元にっかつロマンポルノ女優。数々の団鬼六作品に主演し、若くで引退した伝説の女優。

 告別式で弔辞を詠まれたのは、幻冬舎見城徹社長、日本将棋連盟会長の米長邦雄氏、そして女優・谷ナオミさん。どの方の言葉も素晴らしく、胸に響きました。

 ただ、凛としながらも声を震わせ、団鬼六先生へ語りかける谷ナオミさんは、例えるものが見つからぬほど美しかった。

 御焼香を終え、団先生に最後のお別れをした。団鬼六先生は綺麗で穏やかな顔で花に囲まれてらっしゃった。喪主の長男・秀行さんのご挨拶も素晴らしかった。
 棺が運ばれ、ご家族がそれに続く。そして親族のあとに、愛染恭子さんや、谷ナオミさんが続かれた。

 谷さんの表情を見ていたら、たまらない気持になった。
 文章を生業としながらも、その感情を上手く言葉で言い表せないことが情けなくもどかしい。
 ただ、団先生を見送る谷ナオミさんの姿をみて、この場にいられることに感謝する他はない。本当に、本当に、谷さんは美しく、「団鬼六」の生涯を飾る「花」がそこにすっくと咲いていた。谷さんを花に例えるなら、椿かもしれない。艶やかで華やかだけれどもつつましく、日蔭の似合う花。

 「団鬼六」と「谷ナオミ」に出会えたことを幸福に思う。
 傑作「花と蛇」のヒロインの遠山静子夫人は、谷ナオミ以外にいない。



 団鬼六を見送る谷ナオミ――それはこの世で最も美しい光景だった。




 告別式を終え、深志さんと一緒に、睦月影郎、藍川京、館淳一柚木郁人(敬称略)と、官能界の錚々たる方々と精進落としをさせていただき、新幹線で関西に帰った。

 
 その夜に、夫の吉村智樹と一緒に和菓子を食べた。
 第一回団鬼六賞大賞受賞作「花祀り」は京都の和菓子の世界を舞台に描いている。主人公は女性の和菓子職人。
 この「花祀り」を読んでいただいて京都の老舗和菓子屋の女性職人の方にお願いをして小説をモチーフに和菓子を作っていただいたのだ。
 そしてそれを、出版祝&結婚祝をいただいた方などにお返しにと送らせていただいた。
 この和菓子に添えるメッセージカードを書いていた時だ、ちょうど団先生が亡くなったのは。

 だから、団先生に食べていただくことはかなわなかった。
 「和菓子の描写は上手くて、和菓子が食べたくなった。だけど官能は全然描けていない、女体描写もできていない」と団先生に言われて、ずいぶんと受賞作は加筆して出版に至った。
 この和菓子は食べていただくことは間に合わなかったけれど、お供えをしてきた。






 
 私の手元には、このお菓子に添えるつもりで書いて、間に合わず、渡せなかった団鬼六先生宛てのメッセージカードがある。



花祀り

花祀り