ごくごくとセックスを呑みこむことが出来たなら、身体で。

  「TOKYO NOIR トーキョーノアール」を、DVDで観た。2人の監督が描く、3つの物語。ふとしたことから、身体を売り始め、昼の顔と夜の顔を持った女達の物語。

 「セックス」そのものではなく、「セックスの乾き」が描かれていた。私は自分の中の乾きを呼び覚まされ思い出し揺り動かされ、全編、痛みを感じながら観ていた。
 枯渇している女のセックスは乾いている。身体は濡れても心は乾いている。セックスは気持ちがいい。お金を貰ってしても、好きな人としても、好きじゃない人としても、気持ちがいい。
 「好きな人じゃない人として気持ちいいはずがないから、AVでのセックスは全て演技で感じているのだ」と言われたこともあるけれど、私はそうは思わない。
 セックスは気持ちいい。求められ、おまんこにおちんちんを入れられたり、舐められたり、舐めたりする行為は、それそのものが気持ちがいい。好きな人とのセックスとか言うけれど、歴史を見ても、皆が自由恋愛で結婚できるようになったのなんてここ近代で、昔はあたりまえに政略結婚や親が決めた者と結婚していて初夜まで顔を見ないことなんてザラだったんだ。恋愛=セックスだとしたら、セックスの快楽そのものが存在しないことになるじゃないか。

 身体を売る女と、身体を売らない女の間には、深くて暗い川があると、私自身は思っている。それは良い悪いで判断されるものではないけれど、わからないものというのが、確かに存在すると思っている。
 
 乾き。枯渇感。何故それを感じるのか。セックスがただの排泄行為、性欲の解消ではないからだ。何故乾いているのか、身体が繋がっているのに、何で枯渇しているのか、何が欲しいのか――人が、欲しい。誰なのかわからない、私が欲しい人は、誰なのかわからない。ただ、乾いている。灼熱の砂漠を彷徨う者のように水を水をと、乾き飢えている。

 セックスを売るということは、とてもわかりやすい。自分が女であることを、貨幣の価値で実感出来るからだ。わかりやすいから、若い女の娘が身体を売ることは、良くないと思う。恋愛みたいな、不条理で腑に落ちなくて自分自身もどうしようもない予想外のごちゃごちゃした人間関係に巻き込まれることをたいして経験しないうちに、そんなわかりやすい自己実現を手にいれることは、良くない。悲しいことも嬉しいことも死にたくなることも薔薇色の人生もわけわからないうちにセックスを売っちゃうのは、よくない。

 私は初体験が24歳で、初キスも同じ時で。「遅い」と言われるだろうし、自分でも「このまま一生処女かもしれない」と思っていた。やっとこさ初体験したものの、それはお金を貸すことと引き換えに「してもらう」という、殆ど前戯無しの全くいい思い出などないどころじゃない、最悪な形の処女喪失だった。つまりは、お金で男を買ったようなものだ。初めてあそこを舐められたのも、同じパターンだ。お金と引き換え、だった。
 処女喪失は遅いし、初体験は最悪だし、その後も20代なんて、ロクなセックスしてないどころか、指折り数えられるぐらいしか挿入などされていないし。
 
 だけど、まあ、それでも何とかこうして生きているし、いろんな男とも数は少ないけどセックスしたし、「思い出のステキな初体験」「楽しい20代」「彼氏と恋人気分」なんて縁遠いけど、それなりにぼちぼちやっている。

 若くでセックスすることもないし、ましてや売らない方がいい。だけど、セックスほど、この世でこんなに楽しく切なく心を揺さぶられることもないと思っているので、セックスは知らないより知っておいた方がいいよ。

 「TOKYO NOIR トーキョーノアール」を観ながら、その渇きに痛みを感じながら、思うことは、「セックスがしたい」そのことだけだった。
 お金に換算されるセックスでもいい、恋愛関係ではない人とのセックスでもいい――いや、むしろ、そういう刹那的な、セックスの方がいいとすら思った。先のことを考えなくていいセックスの方が。心を求めないでいい相手とのセックスの方が。
 セックスしたい。

 けれど、そんな都合良く寝てくれる相手もいないし、だからと言って誰か寝る人を探すほどの行動力もないし、翌日のこともあるから映画が終わっても家で寝る以外のことは出来ないし、私の渇望なんて、その程度のものかもしれない。

 「恋愛」には絶望しかかっている。そう思わせるクズとばかり関わってきたのは私の責任と愚かさなのだが。
 ここしばらくは「セックスしたい」と思った時に、その選択肢が「売春」と「出会い系サイト」しか浮かばなかった。自虐的なセックスをすると、ロクなことがないのは経験済みだから、そこへは行けないのだけれど。それに、きっと今更セックスを売っても、乾きが酷くなるだけなのは、わかりきっている。若いうちなら、もっとそのことを楽しめたのかもしれないが。
 頭の上に広がる雨雲のように黒い「絶望」は、いつになったら取り除かれ、晴れるのか。

 私はこのまま、乾ききったままで、ミイラになり死ぬんじゃないかと恐怖することがよくある。
 もう、若くはない、私は。
 私が今、火に焼かれても、乾いた女の性器だけは灰にならずに口を開けてぱくぱくと蠢いているような気がする。
 

TOKYO NOIR トウキョーノワール Perfect Edition [DVD]

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