人間の想像力の凄さを見た

昔、お金にめちゃめちゃ困っていた頃、(今も金ないですけど)昼間に会社勤めしながらら夜中にテレクラのサクラをしていました。

 最初はテレクラに電話をかける男の人に対してすごく偏見があったんですが、実際喋ってみると、寂しくて話し相手の欲しい人とかいろんな人がいました。変な人もたくさんたけど。
 テレクラのサクラと言うのは、たくさん話すと、それだけ給料ももらえるわけですから、いかに、「会おうよ」と言う男に対して、会わずに、しかし期待を抱かせながら(会えないとわかればすぐに電話を切られてしまうので)長く話をするかというのがテクニックでして、これが難しい。しかも年齢やら状況やら嘘で固めてるわけで、(いきなり干支聞いてくる男の人も多い、年齢聞いたら嘘を言うだろうけど、嘘の干支はとっさに出てこないだとうと思っているのだろうけど)、会う気もないのに、会えそうなそぶりを見せる駆け引きを電話だけでするのは、精神力いるし疲れる。だからこのバイトは、長続きしませんでした。なんか重ーい気分になってしまって精神的にまいっちゃうんです。


 そのテレクラのサクラをしてた時のことなんですが、電話が繋がって、もしもし、と私が言うと、、、

「金玉って言って!」

 と相手の人いきなりに頼まれたことがあります。

 ??? と思いつつ口にすると、


「もっと! もっと!」


 と言うので、


「金玉金玉金玉、、、」
 とひたすら言いました。少し間があくと、「もっと! もっと! 金玉ってずっと言って!」とせがまれるので、何の抑揚もなく、色っぽい口調ではなく、まるでお経のように、淡々と、



「金玉金玉金玉金玉、、、、、」

 と私は言い続けたのです。

 私の人生で、こんなお経を読むような淡々とした口調で、金玉と言う単語を連発したことは初めてのことでした。これからもないでしょう。なくていいけど。

 私の淡々とした口調と対照的に、電話の向こうの男の息は荒くなり、遂には果てたようなうめきがして、電話がガシャンと切られました。何だったんだ、今のは、、、と思いながらも、顔も年齢も知らない、おそらくこちらがサクラだと言うことはわかっていただろうし(サクラじゃなければ、女の方が電話切るだろうよ)、あんな抑揚のない声で、ただひらすら金玉と言う単語を繰り返すのを聞くだけで、気持ちよくなることができるその男の想像力に感動していました。
 
 いや、すごいよね。