書評のようなもの

 団鬼六伝「赦す人」

作家・団鬼六――。 その死の報の際に「最後の文豪」と冠されることもあった。 最後の文豪――紛れもなく、作家・団鬼六は後世に名を遺されるべき「文豪」である。 団鬼六を知っていますか。 「もちろん知っている」と、答える人は多い。 けれど、それはポルノ映…

 デフレ化するセックス

娼婦の物語を書こうと思っている。 いつになるか、わからないけれど。 小説家になる前から、そう思っている。 それは私に「女が身体を売る」ということが抗えないほど自分の一部だと言っていいぐらいにこびりついているからだ。女が女という商品であること、…

 愛人犬アリス

「私が死ぬとき、お願いです、そばにいてください。そしてどうか覚えていてください、私がずっとあなたを愛していたことを」 「愛人犬アリス」(著・団鬼六)という本が出ました。 上記のセリフは、この本に度々出てくる言葉です。 団鬼六先生のブログにもた…

 「賭博未来論」 市原克也

その時は、いつも、死んでもいいと思っていました。 この男のためなら、死ねる、と。 私にとって、男を好きになるということは自分の全てを投げ出すということなのです。 情が深いと言われます。それは男にとってありがた迷惑な情念なのです。全てを投げ出す…

 ただセックスがしたいだけ

「ただセックスがしたいだけ」 大きめのポケットならば、すっぽりと収まるような小さく薄いこの本を、左京区北白川のガケ書房で買った。 画家・牧野伊三夫さんの「ただセックスがしたいだけ」という絵に触発されて作家の桐野夏生さんが書いた短編小説に、更…

 「癒しとイヤラシ エロスの文化人類学」 田中雅一・著

私は時折、切に、切に、セックスがしたくてたまらなくなる。 泣きたいほど、恋しくなる、セックスが。 触れたい、触れられたい、抱きしめられたい、繋がりたい。 けれど、この「セックスしたい」という気持ちが、性欲と言う言葉で片付けられるものなのか、そ…

 出家と刺青

「だから私ね、決心したの。もう二度と男は作らないって。私と一緒になった男が可哀想になるのよ。私は1人で生きていく方が似合ってるわ。その方が幸せになるのよ」 (中略)「私、本当に男とは縁をきっぱり切ったのよ。その証拠、見せようか」 かなり酩酊…

 風の墓

東京の八王子の墓地の、ある墓石には、「風の墓」と記されている。数年前、そこに手を合わせに行ったことがある。飄々と佇む、戒名「風々院風々風々居士」に相応しい墓だった。 「風の墓」に眠る大作家――山田風太郎を、あなたは知っているだろうか。 本当は…

いいんだぜ

☆ さんぽにゆく。 某日、田中課長と、緑川夫人と三十路女3人で京都散歩をする。 田中課長と緑川夫人は初対面なので、「この方、田中課長と言いますけど、会社員じゃなくてペンネームで課長と名乗ってるだけです」「こちらは緑川夫人ですが、江戸川乱歩『黒…

 人は幸せになるために生まれてきたのです

ワールドカップも、参議院議員選挙も消し飛んでしまった。 直木賞作家、劇作家、演出家の、つかこうへいさんが亡くなったというニュースhttp://mainichi.jp/select/wadai/graph/tsuka_kouhei/を聞いたから。 私は舞台を観たことがないので、演出家としての顔…

 「AV黄金時代 〜5000人抱いた伝説男優の告白」 太賀麻郎・東良美季 〔後編〕

「ただ、セックスしてる、その瞬間は判るよ。その女の子の全てがわかる」「何日、何ヶ月、何年と付き合うよりも?」「うん。幾晩語り明かし、何千何万という言葉を交わすより、たった一度セックスした方がわかる。ねえ、なぜだと思う?」「さあね」「それは…

 「AV黄金時代 〜5000人抱いた伝説男優の告白〜」 太賀麻郎・東良美季  〔前編〕 

それは、心を揺り動かす懐かしい歌。 時には母の歌う子守唄のように、時には酒の香りのするバラードのように、時には怒りに満ち血を滾らせるロックのように、時にはまだ見ぬ神に奉げる賛美歌のように、砂漠の砂が水を啜るように乾いた心の隙間から血管を伝い…

 雑誌の死

永く愛読していたAV情報誌が終刊した。今まで一番永く購入し続けていた雑誌だ。バックナンバーは本棚に古い順から並べている。欠かさず購入していたのは11年ぐらいで、それより以前のは古本屋でバックナンバーを探して購入していたので、本棚にはそれこ…

 恋地獄 〜「源氏物語」大塚ひかり全訳〜

恋が愛に変わればいいけれど、ずっと恋のままならば、それは地獄だ。何故なら恋は求めることで、愛は与えることだから。求めるものが多いほど、求める心が深いほど、地獄の猛火の中に堕ちていく。自分が他人に対して求めるものなど、手に入らないものばかり…

恐怖は、そこに、ある  〜 「妖奇怪談全集」 山田誠二・著 〜

闇の中には、何かが居たとしか思えなかった。 後ろを振り向くことが、絶対に出来なかった。 ひんやりとした空気、隙の無い静寂、古い土と草の匂い、そこで私は泣き叫んでいた。 子供の頃、悪いことをすると、父親に家の蔵に入れられた。言っておくが虐待され…

 「エロスの原風景」 松沢呉一・著

いやらしいことをするのが好きですか。 いやらしいものが、好きですか。 わたしは、好きです。 私は便宜上、AV、エロライターとか名乗ってはいるけれども、エロ媒体に近づけば近づく程に、乗り越えられない壁を感じてしまう。男には敵わないな、と思う。 …

 彼の岸へ、送り火の夏

☆ 大原麗子(女優) バスガイドになったきっかけは歴史が好きだから。 小説で好きなジャンルはダントツに歴史。 歴史・・と言っても世界史には疎いので日本史限定なのだけれど、世の中にこれほど面白いドラマは無い。 どうして日本史に興味を持ったのか。 そ…

 京都繁華街の映画看板 〜タケマツ画房の仕事〜

As Time Goes Bay 〜時の過ぎ行くままに〜 あの時のキスはただのキス あの時の溜め息はただの溜め息 新京極通りから、東西の筋を少し入ったところにあったポルノ映画館の「八千代館」が去年閉館した。「八千代館」の前にはハンフリー・ボガート…

 北天の雄

☆ 清水へ 五月最後の今日、朝から清水寺へ行って参りました。京都駅は驚くほど人が少なかった。やはりまだ新型インフルエンザの影響が残っているのでしょうか。 駅からバスに乗り、五条坂で下車。急な坂道を歩いて清水寺へ。京都で一番観光客が訪れるのがこ…

 名前のない女たち 最終章 〜セックスと自殺のあいだで〜 中村淳彦・著

セックスばかりしていた時期がある。 複数の男と、毎日のように、セックスをしていた。 好きな男はいた。その人に申し訳ないと思いながらも、そんな生活をしていた。どうしてそんなことをしていたのか。セックスが好きだから。いや、違う。今だってセックス…

 団鬼六という作家を知っていますか・後編

☆ アナコンダ 作家・団鬼六が、「性」を通して出会った様々な人々のエピソードが描かれるエッセイ集。 解説で中野翠さんが「団鬼六は、私にとっては滑稽小説の人だ」と書かれている。 江戸時代の、過剰に性器が描かれた浮世絵、軽妙洒脱に性を謡う川柳など、…

 団鬼六という作家を知っていますか ・前編

あなたは「団鬼六」という名前を聞いて、何を思い浮かべるだろうか。 私が「好きな作家は、団鬼六」と名を挙げると、時折、戸惑い困惑した表情を浮かべられることが少なくない。 「団鬼六」その名を聞くと、やはり大抵の人は、「ポルノ小説家」「SM作家」…

 濫読主義

☆「消された一家」 ―北九州・連続監禁殺人事件― 豊田正義・著 息苦しいこの空間を、助けを求めようとも声を挙げられぬほどの閉塞感を、いっそ発狂してしまいたいほどの絶望を。 ここに描かれている地獄の感触に、私は何故か覚えがある。 2002年に発覚した松…

 あだし野の露きゆるときなく

人間は誰でも猛獣使であり、その猛獣に当るのが、各人の性情だという。己(おれ)の場合、この尊大な羞恥心が猛獣だった。虎だったのだ。これが己を損い、妻子を苦しめ、友人を傷つけ、果ては、己の外形をかくの如く、内心にふさわしいものに変えて了ったの…

 好きなものは呪うか殺すか争うかしなければならないのよ

好きなものは咒うか殺すか争うかしなければならないのよ。お前のミロクがダメなのもそのせいだし、お前のバケモノがすばらしいのもそのためなのよ。いつも天井に蛇を吊して、いま私を殺したように立派な仕事をして……(夜長姫と耳男より) まっすぐ家に帰りた…

 「姉御」という生き方 ―「咲き走り★ホットロード」―すぎはら美里

強くなりたい、と思う。 傷つかずに、泣かずに生きていきたいから。もっともっとタフになりたい、と思う。強くならないと、これから先、生きていけないと思う。強く、強くなりたい。自分の弱さに辟易する度に思う。しょっちゅう、そう思う。 だけど、「強い…

 おれのおんな

司馬遼太郎が大村益次郎(村田蔵六)を描いた「花神」という小説について、本筋から離れたところで少しだけ触れたい。 「花神」の冒頭に、司馬遼太郎と大阪大学教授・藤野恒三郎教授との会話の中で、藤野教授がこう言っている場面がある。 「大村益次郎とシ…

 生きよ堕ちよ ―「鬼ゆり峠」 団鬼六―

この世の名残、夜も名残、死にに行く身をたとふれば あだしが原の道の霜、一足づつに消えて行く、夢の夢こそあはれなれ。 あれ数ふれば暁の、七つの時が六つ鳴りて、 残る一つが今生の、鐘の響きの聞き納め、寂滅為楽と響くなりー ― 「曽根崎心中」道行 近松…

 酒の煙が目に沁みる

☆ この時期は夜遅くなると酔っ払いが醜態を曝しているから嫌いだ。酔ってるから何をしても許されると赤の他人に甘えるヤツらの神経が嫌いだ。人を傷つける暴言を吐いても迷惑をかけても「酔ってるから」で許される風潮が嫌いだ。仕事で散々酔客の相手してう…

 夢の残骸 ― 「火車」 宮部みゆき ―

悪い夢を見た。最悪な夢を。 宮部みゆきの「火車」をようやく読んだ。「火車」とは、火が燃えている車。生前に悪事をした亡者を運ぶ車のこと。 上司から貰った数十冊の本の中で、この本は最も手を出すのに躊躇った本だった。怖かったからだ。平気で読める自…